皆様は
「なんちゃっておじさん」
をご存知でしょうか?
ご存知の方については、大体の年齢層が推測できます。
この「なんちゃっておじさん」は、実は正体不明の中年男性で、実在していたかどうかも不明の存在です。
今で言う「都市伝説」の代表例の一つで、1977年(昭和52年)~1978年(昭和53年)頃に日本中に広まりました。
最初に火が付いたのは、当時の日本の若者の情報源として大きな位置を占めていた
「深夜ラジオ」
でした。
ある深夜ラジオ番組への、一通の投書が・・・。
Wikipediaなどインターネット媒体での解説によると、1977年5月に「たむたむたいむ」という深夜放送(ニッポン放送の制作、全国のラジオ局にネットされていた)に送られてきた、リスナーからの投書が発端だそうです。
東京の山手線の車内で、ヤクザ風の男たちに因縁をつけられていた中年男性が、突然泣き出しました。
慌てたヤクザたちが逃げるように別の車両へ去って行くと、その男性はピタッと泣き止んで、周囲の乗客たちに
「なーんちゃって。」
と、両腕で輪を作って両手を頭の上で合わせるポーズ、いわゆる
「OKポーズ」
をして、乗客たちを笑わせたという話でした。
話が微妙に変化しながら、メディアを通じて全国に拡大!
それ以降、
・一人で泣いていて、周りが心配そうに見ていると「なんちゃって。」と言う
・腹痛のような苦しみ方をしていて、「なんちゃって」と言う
などの変化形のパターンを生み出しながら、瞬く間に他の深夜ラジオ番組にも波及していきました。
翌1978年には、雑誌やテレビでも取り上げられるほどのブームに発展しました。
様々な社会現象や真贋を巡る論争、ブームの終焉など詳細については、ここでは省略します。
ただ、話の広まり方や亜流の作られ方など、「都市伝説」の要素が全て揃っている典型例だと言えます。
このブームが去ってしばらくすると、新たな都市伝説「口裂け女」の話が登場することとなります。
皆様は、「口裂け女」の話をご存知でしょうか?1978年(昭和53年)頃から、主に小学生の間で広まり始めた噂です。翌1979年(昭和54年)には日本全国に拡大し、社会現象化しました。今で言う「都市伝説」のハシリというべ[…]
名作ドラマ『特捜最前線』で、この話を初めて知った!
私はその当時、小学校に入学するかしないかの年齢でした。
当然、ラジオの深夜放送とも週刊誌とも無縁でした。
私が「なんちゃっておじさん」を初めて知ったのは、小学校か中学校の頃に再放送で観た
「特捜最前線」
という刑事ドラマによってでした。
この名作ドラマの第54話
「ナーンチャッテおじさんがいた!」(1978年(昭和53年)4月12日放送)
は、「なんちゃっておじさん」を題材にした作品でした。
コミカルなタイトルに反し、重い内容の話!
電車内で迷惑行為をしていた男たちを、ある会社員がユーモアを交えて注意し、その場は納まりました。
しかし家へ帰る途中、後を尾けてきた先程の男たちに襲われ、その会社員男性は殺されてしまいます。
犯人を追う特命課の高杉刑事(若き日の西田敏行さん)の前に、謎の老人(名脇役の今福将雄さん)が現れます。
ある目的のため、電車内で迷惑行為をする輩をおちょくるのです。
凄まれると嘘泣きし、相手がバツが悪くなり逃げ去ると、舌を出して
「ナーンチャッテ!」
とOKポーズをして、周囲の乗客たちを笑わせます。
ドラマでは「ベロ出しおじさん」として、評判が広まっていました。
まさしく「なんちゃっておじさん」です。
但し、そこは特捜。
ほのぼのとした話では全くありません。
むしろ非常に重い内容の話なのです。
正義感から迷惑行為に物申した男性が、逆恨みで殺されます。
電車内には容疑者の顔を目撃した乗客が多数いたにもかかわらず、情報提供はほとんどなく、捜査は遅々として進みません。
特命課の刑事たちも苛立ちを抑え切れず、内輪揉めしながら犯人を追い続けます。
40年を過ぎた令和の日本でも、見て見ぬ振りが・・・。
こうしたことは、40年以上が経過した現代の日本でも起こり続けています。
「触らぬ神に祟りなし」
という言葉の通り、厄介な事に巻き込まれないように毎日を過ごすというのが、令和の日本に生きる我々の姿です。
特捜ファンの間でも、この回は
「落ち着いた気分では観られない話」
として語られています。
ちなみに第54話の脚本家は、先日最終回を迎えた日本版「24」の脚本を担当した
長坂秀佳さん
です。
高度成長期の『他人を顧みない』風潮から生まれたブーム?
深夜ラジオ番組への一本の投稿から、日本中の若者や子供たち(最終的には大人たち)の話題に上るまでになった「なんちゃっておじさん」ですが、なぜそこまでの拡大
(現代風に言えば『拡散』)
を見せたのでしょうか。
もちろん諸説あるでしょうが、個人的には
「困っている他人に声をかける勇気がない現代人」
の心の葛藤のようなものが、ブームの原動力だったのではないかと考えます。
まだ社会の厳しさを身をもっては知らない若い世代も、1970年代後半の
「高度経済成長」
時代の真っ只中にあり、社会の
「他人を顧みない」
風潮を感じていたはずです。
そうした社会の現実を
「なんちゃって!」
と、お茶目なポーズを取りながら一般市民に突き付けてくる、一種の
「アンチヒーロー」
として生まれたのが「なんちゃっておじさん」ではないでしょうか。
最後に・・・。
長期化するコロナ禍、株高という実感の全くない経済的低迷、政治・行政の機能不全・・・、問題だらけでギスギスした雰囲気に包まれた令和日本に、そろそろ
「令和のなんちゃっておじさん」
が出没し始めてもおかしくないと思う、今日この頃です・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
興味がございましたら、こちらもお読みください。
公共交通機関は、我々の日常生活に不可欠な存在です。特に電車は利用者が断トツに多く、毎日ご利用の方も多いでしょう。電車の車内や駅の構内は、不特定多数の人々が行き交う所です。カッコ良く言えば「見知らぬ人同士の人生[…]
「裸の大将」という言葉を聞いてどう反応するかで、その人の大体の年齢層が把握できます。「裸の大将」とは、厳密には「裸の大将放浪記」というテレビドラマ、もしくはそのドラマの主人公を指します。 […]
皆様は電車内で、明らかに「ヅラ」をかぶっている人に遭遇なさったことがあるでしょうか。世の中には男女問わず、「薄毛」に悩んでいる人は多いです。中には病気で頭髪が抜けたりして、いわゆる「ウィッグ」をかぶっている方々もいらっしゃい[…]