2021年(令和3年)1月1日、俳優の
福本清三さん
が亡くなったことが報じられました。
享年77歳。
ご存知の方も多いでしょうが、福本さんは60年を超える役者人生のほとんどを
時代劇の
「斬られ役」
として過ごしました。
映画やテレビドラマで主役に斬られる、地味で目立たない役回りです。
しかし、その斬られ役を長年演じ続けたことで、
「5万回斬られた男」
として知名度が上昇しました。
2003年(平成15年)に公開されたトム・クルーズ主演の映画
「ラスト・サムライ」
にも出演。
キャリアの晩年に有名となった、珍しい役者さんです。
役者人生でただ一度、映画の主役に!
そんな福本さんが生前に一度だけ、主演を務められた映画があります。
それが2014年(平成26年)公開の
「太秦ライムライト」
という作品です。
「太秦」(うずまさ)
と言えば、ほとんどの人が連想するのは、京都にある東映の映画・テレビドラマ撮影所でしょう。
「ライムライト」
は、アメリカの喜劇王チャーリー・チャップリンの映画の題名です。
主人公はベテラン斬られ役。しかし時代劇の激減に伴い・・・。
福本さん演じる主役の
香美山清一
は、時代劇の斬られ役として、長年太秦で過ごして来た俳優。
しかし、時代の移り変わりと共に、映画・テレビの時代劇の本数が激減。
たまに時代劇があっても、斬られ役ですらベテランの居場所はない状況。
斬られ役の仲間たちと一緒に、ドラマで死体役のエキストラをやることも・・・。
そして、あるトラブルをきっかけに、香美山は太秦映画村でチャンバラショーに出演することとなりました。
新人女優に殺陣の指導。その後、彼女はチャンスを掴むが・・・。
ある日、香美山は新人女優の
「伊賀さつき」(演じるのは映画初出演の新人、山本千尋)
と知り合います。
さつきも女優としての夢を掴むべく、
「仕出し」(エキストラのこと)
からキャリアをスタートさせます。
ある時、殺陣の稽古をしている香美山の元に、さつきがやって来ます。
香美山に弟子入りし、殺陣を学びたいとのこと。
さつきの熱意を感じた香美山は、稽古をつけることに。
しばらくして、さつきは新しいテレビ時代劇で、ヒロインのアクションシーンの吹き替え(代役)を務めます。
彼女のアクション・殺陣は高く評価され、トラブルで降板したヒロインの代役に抜擢されることとなりました。
さつきに訪れた大きなチャンスに、香美山は喜びます。
しかし、香美山自身は作品に参加する機会もなく、チャンバラショーに出る日々。
迫り来る役者人生の終わりを前に、香美山はどういう決断を下すのか?
時代劇の栄枯盛衰を知る福本さんがハマり役。豪華キャストが脇を固めて援護!
ネタバレ防止のため、これ以降の展開は書かないでおきます。
この映画は、老境に達した「斬られ役」が主人公だけに、決して爽快な話ではありません。
衰退の一途を辿る時代劇と、主人公の人生が重なり合い、全編に切なさや物悲しさが漂っています。
そうした部分は、
「時代劇の栄枯盛衰」
を身をもって知る福本さんにしか表現できなかったでしょう。
また、脇を固める役者さんたちが、小規模の作品にもかかわらず非常に豪華です。
松方弘樹さん
萬田久子さん
小林稔侍さん
本田博太郎さん
合田雅吏さん
など、かつて時代劇でも活躍なさった大物たちが、福本さんの最初で最後の主演作に華を添え援護なさっています。
ヒロイン役の山本千尋の経歴が凄かった!
本作のヒロインと言うべき役回りの伊賀さつきを演じる
山本千尋さん(公開当時17歳)
が、映画初出演とは思えない堂々たる演技を披露なさっています。
山本さんは3歳から中国武術を始めた、武術太極拳選手でした。
2008年(平成20年)と2012年(平成24年)の二回、
「世界ジュニア武術選手権大会」
で金メダルを獲得。
そうした背景をお持ちのため、殺陣の動きやアクションも驚くほど決まっています。
17歳の若手女優とは信じられないほどです。
山本さんは高校卒業後の2015年(平成27年)にアメリカへ留学。
1年弱の間、演技を学びました。
帰国後は、時代劇や特撮物、刑事物など幅広いジャンルの作品に出演。
前途有望な若手女優です。
最後に・・・。
この作品が公開されてから7年が経ちます。
残念なことに、日本の映画界やテレビ界で時代劇の占める割合は、一層低下しています。
時折新しい作品が上映・放映されても、アイドル俳優・女優が主役で、かつコメディータッチの荒唐無稽な作品がほとんどです。
他のジャンルと同様、大人が落ち着いて観られる作品が絶滅しかけています。
天国の福本さんは、こうした状況をどんな思いでご覧になられているでしょうか・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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