今回ご紹介する映画は、2008年(平成23年)公開のイタリア映画
「ゴモラ」(原題:Gomorra)
です。
日本では2011年(平成23年)に公開されました。
監督はマッテオ・ガッローネ(Matteo Garrone)。
イタリア人ジャーナリストのロベルト・サヴィアーノによるノンフィクション
「死都ゴモラ」(日本語版は河出書房新社より発売)
が原作です。
描いているのは、イタリア南部のナポリを本拠とするマフィア(犯罪組織)
「カモッラ」(Camorra)
の実態です。
イタリアのマフィアは、シチリア・マフィアだけじゃない!
イタリアのマフィアと聞くと、日本では大抵の人が
「シシリアン・マフィア」(南部シチリア島をルーツとする)
を思い浮かべるでしょう。
しかしイタリアでは、
「Cosa Nostra」(コーザ・ノストラ)
「’Ndrangheta」(ンドランゲタ)
「La Sacra Corona Unita」(サクラ・コロナ・ウニータ)
「Camorra」(カモッラ)
の4大マフィアが勢力を競っていると言われます。
ちなみに原作者のロベルト・サヴィアーノは、「死都ゴモラ」を発表したことにより、2006年にマフィアから殺害予告を受け、警察の警護の下で生活することを余儀なくされました。
2008年には、イタリアから出国しています。
カモッラは、一般社会と一体化した『巨大犯罪ネットワーク』!
この映画を観て驚くのは、カモッラは単なる一つの犯罪組織ではないという点です。
麻薬や売春、武器密売といったお決まりの分野だけでなく、様々な職種を手掛けています。
一般市民の生活の中に溶け込み、
「社会と半ば一体化」
した形で機能している
「営利企業的な巨大犯罪ネットワーク」
となっています。
映画は、五つの異なる物語が並行する形で進んでいきます。
しかし、主要な登場人物のほとんどは
「明らかにその筋」
と分かる人間ではありません。
カモッラとは関係のない人もいます。
しかし皆、生きていく上でカモッラから何らかの影響を受けています。
五つの物語のあらすじは・・・。
まず第一の物語の主役は、
マルコとチーロ
というチンピラの若者二人組。
アメリカのギャング映画に憧れ、
「いつか大物になってやる!」
と夢見ていますが、日々チンケな犯罪に手を染めています。
ある日二人は、組織が隠していた大量の銃火器の在りかを発見します。
そして、いくつかを勝手に持ち出しました。
気が大きくなった二人は、無軌道に暴れ回るのですが・・・。
第二の物語の主役は、
少年トト。
親が営む雑貨屋の手伝いをしており、組織の関係者やその家族たちが多数住む巨大団地に配達で出入りしています。
ある出来事をきっかけに、組織の仲間入りをします。
その後しばらくして、親友が敵対する組織に加入。
トトも、組織同士の抗争に巻き込まれていきます・・・。
第三の物語の主人公は、
中年男のドン・チーロ。
組織の構成員の家族や遺族に、定期的に金を配る仕事をしています。
ある日、親交のある女性マリアから、息子が敵対する組織に入ってしまったと言われ、相談を受けます。
ドン・チーロはあれこれ悩みますが、解決方法は見つかりません・・・。
第四の物語の主役は、産業廃棄物処理会社で働く
若者ロベルト。
経営者フランコ(演じているのは、イタリアを代表する名優トニ・セルヴィッロ)のアシスタントとして、フランコに付き従いあちこち飛び回っています。
彼の父は「息子がいい会社に就職できてよかった。」と喜んでおり、ロベルト本人も充実した日々を過ごしていました。
ところが、フランコの会社は不法投棄などは日常茶飯事で、外国人労働者に説明もしないまま、危険な仕事をやらせるなど、悪どく儲ける会社だったのです。
実情を知ったロベルトは・・・。
第五の物語の主人公は、
仕立て職人のパスクワーレ。
組織の一員が経営する縫製工場(オートクチュールの下請け)で長年働いています。
ある日、中国人業者から腕の良さを見込まれ、副業で(社長には内緒で)中国人労働者への技術指導を行い始めます。
しかし組織にとっては、自分たちの仕事の受注に割って入ろうとする中国人業者は、目の上のたんこぶだったのです・・・。
派手さは全くなく、無機質な冷たさが作品全体に充満・・・。
このように、五つの異なる物語が同時進行していきます。
ネタバレにならないよう、これ以上の詳細を説明するのはやめておきます。
イタリア映画によくあるユーモアや明るさは、この映画には全くありません。
マフィアを題材とした作品なので、発砲シーンは出て来ますが、ハリウッド映画のような派手さや爽快さとは全く無縁です。
作品全体に
「ひんやりとした無機質な冷たさ」
が充満している感じを受けます。
我々観ている側も、カモッラに牛耳られた街の一員として、目に見えない網のようなものに絡め取られていくような感覚に陥ります。
カモッラはゴミ収集・産廃処理から洋服の製造に至るまで、社会経済システムの奥深くにまで浸透しており、多くの人は全く気付かないまま、その構造の中に入り込んでしまっています。
そうした雰囲気を体感させるような映像撮影も秀逸です。
神に滅ぼされた街と、カモッラに支配される街が重なる・・・。
映画のタイトル「ゴモラ」という言葉を聞くと、聖書の知識をお持ちの方なら、旧約聖書に登場する都市
「ソドムとゴモラ」
を連想なさるでしょう。
二つの都市は悪徳・退廃を象徴しており、神の怒りに触れて焼かれ、消滅したとされています。
ゴモラの英語綴りは「Gomorrah」。
映画のタイトルは「Gomorra」。
悪徳のため滅ぼされたゴモラの街と、カモッラが陰で支配する現代のナポリを重ね合わせているそうです。
また、カモッラ「Camorra」とゴモラ「Gomorra」もよく似た響きです。
最後に・・・。
しかし、現代の日本の社会状況を鑑みると、この映画をよその国の事だと呑気に見てはいられません。
この作品を観終わってから日本の様々なニュースに触れると、何となく
「既視感」(デジャブ)
を覚えます・・・。
この作品のDVDはネット通販で販売されており、レンタルも可能です。
是非ご覧いただきたい作品です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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