このブログでは、
「懐かしマンガ」
を多数紹介しています。
中でも、山岸凉子先生の作品を3作紹介してきました。
「汐の声」
このブログを御覧の皆様にも、子供の頃に読んだマンガで、未だに記憶の片隅に残って離れない「懐かしマンガ」はいくつかあるのではないでしょうか?私にもそうした作品は色々あるのですが、その中には(1)大人になってから再度読む機会を得[…]
「わたしの人形はよい人形」
今回は、前回に引き続き山岸涼子先生の作品をご紹介します。タイトルは、「わたしの人形は良い人形」です。「タイトルからして、既に充分怖いよ!」というツッコミを入れたくなります・・・。角川書店(現:[…]
「白眼子」
このブログでは、山岸凉子先生のマンガを二作品紹介してきました。「汐の声」[sitecard subtitle=関連記事 url=https://kumafumo.com/nostalgic target=][…]
です。
読み切り・短編作には怪奇・心霊物が多い!
山岸先生には、「日出処の天子」のような長期連載のヒット作も多数あります。
しかし、読み切り作品や前後編などの短期連載作品も多いです。
その中には、怪奇・心霊物がかなり含まれています。
今回紹介する
「海底より(おぞこより)」
も、「ひとみ DELUXE」(秋田書店)1983年11月号に掲載されました。
山岸先生は日本や西洋の歴史に精通なさっており、多くの作品の舞台や題材として取り上げられています。
「海底より」も、日本の歴史が題材となっています。
そこに心霊現象が絡んでくるという、ストーリー展開です。
山口県の高校生宅に、元芸能人が・・・?
舞台は現代の日本、山口県。
主人公の登(みのる)は、高校3年生の若者です。
ある日学校から帰宅すると、3人の来客がいました。
ほとんど交流のなかった遠い親戚の姉妹と、姉の方の夫。
妹の姿を見て、登は驚きます。
妹の真美は、1年ほど前まで「翼マミ」の芸名で人気のあったアイドル歌手でした。
登もテレビなどで見ていました。
「なぜ翼マミが東京から山口へ?」
実は、真美は病気で視力が著しく低下。
周囲の人や物もボンヤリとしか見えず、いずれは失明する危険がありました。
真美のマネージャーだった姉は、芸能活動ができなくなりお荷物となった真美を、登の家に預けるべく相談に来ていたのでした。
人の良い登の両親は、真美を預かることに同意します。
神社で聴こえる平家物語、磯の香りのする子供の気配・・・。
登も、元アイドルが自宅に居候することに、少し胸がときめきます。
しかし真美は、世をすねた態度で心を閉ざしています。
出された食事にも文句をつけるワガママぶり。
登は頭にきて一喝するのですが、真美はどこ吹く風。
真美は杖を頼りに、日中も一人で外出。
見知らぬ町中を歩いているうちに、登の家の近くの神宮(神社)に辿り着きます。
そこで、有名な「平家物語」の一節を耳にします。
「最近の神社は、商魂たくましいわね。境内でテープなんか流して・・・。」
真美は苦々しく思うのですが・・・。
別の日には同じ神宮で、小さい子供の気配を感じます。
姿はボンヤリとしか見えないのですが、その子からは磯の香りが漂っていました・・・。
海に興味を示し、引き寄せられていく真美。その運命は?
登は、自分勝手に出歩く真美に憤りながらも、真美を探し出しては自宅に連れ帰ります。
しかし、真美が家の近くにある
「壇ノ浦」
の海に異常に興味を示し、引き寄せられていくような感じに、登は言い知れない不安を覚えます。
果たして真美の運命や如何に?
登は真美を救うことができるのか?
日本史と古典文学が、作品の骨格に!
ネタバレ防止のため、これ以上の説明はしないでおきます。
お気づきの方も多いでしょうが、登の家の近所の「壇ノ浦」は、平家が源氏との戦いに敗れて滅亡した海です。
そして、真美が訪れた神宮のそばには、
「七盛塚」
があります。
ここは、小泉八雲の小説「怪談」の一編
「耳なし芳一」
で、琵琶法師の芳一が平家の亡霊と出会った場所です。
平家の滅亡の歴史、古典文学の名作が、この作品の骨格となっています。
ヒロインの境遇と、芳一や平家がリンク!
そして、ヒロイン真美の境遇に、芳一や平家と重なる部分があるのです。
芳一は盲目の琵琶法師でしたが、真美も失明の危機にあります。
芳一は、平家物語の弾き語り(平曲【へいきょく】)の名手でした。
較べるべくもありませんが、真美もアイドル歌手として活動していました。
しかし視力が衰えると、周囲は手の平を返したように離れていきます。
真美も平家と同じく、没落を味わっています。
無理なこじつけのない形で、現代の少女と平家物語、耳なし芳一をリンクさせる辺りは、さすが山岸先生と言いたくなります。
最後に・・・。
この「海底より(おぞこより)」は、潮出版社の
「山岸凉子スペシャルセレクションⅢ 神かくし」
に収録されています。
興味をお持ちの方は、ぜひ御一読いただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。