ネタバレなし:日野日出志「水の中」は怖くて泣ける!

このブログでは、懐かしマンガ、特に

怪奇マンガ

に関する記事を時々書いています。

以前、日野日出志先生の「ウロコのない魚」を紹介しました。

 

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まな板の上の魚と包丁

 

日野先生は、主に1970年代〜1980年代に活躍なさったマンガ家で、ほぼ怪奇・ホラー作品一筋です。

現在40〜50歳代の方々には、今はなき出版社

ひばり書房

 

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不気味な高層ビル群

 

の怪奇マンガ単行本で日野作品に出会い、絵と物語のあまりの怖さに、心にトラウマを植え付けられた方も多いはずです。

 

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『水の中』は少年マンガ誌に掲載された・・・。

近年、日野先生の作品の多くが、復刻出版されています。

Amazonなどで電子書籍版を読むこともできます。

上記の「ウロコのない魚」は、

「日野日出志トラウマ!怪奇漫画集」(イカロス出版:定価1,600円+消費税)

に収録されています。


 

この本には他に5作品が収録されていますが、最初に収録されている

「水の中」

という作品が、色々な意味で怖いです・・・。

少年画報社から出版されていた週刊マンガ雑誌「少年画報」1970年(昭和45年)18〜19号に掲載されました。

主な読者層は小〜中学生だったはずですが、内容は

「よく、少年誌にこの作品を載せたよな・・・。」

と思ってしまうほどです。

 

1ページ目から、ショッキングな絵が!

最初の15 ページほどは、雑誌掲載時はカラーだったようです。

いきなり1ページ目に、

頭や顔が醜く変形した少年

が登場します。

和室の畳の上に、ノースリーブのシャツと半ズボンという格好で座っています。

しかし、少年の両腕には、肘から先がありません・・・。

そして、左脚も膝から下がなく、右脚は膝から少し下の部分がありません・・・。

少年の横には、かなり大きな水槽が置かれています。

1ページ目を見ただけで

「一体どんなマンガなんだ?」

という疑問と、不思議な怖さが湧き上がってきます。

2ページ目と3ページ目が見開きになっており、「水の中」というタイトルと共に、水槽の中を泳ぎ回る熱帯魚たちが描かれています。

 

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少年の悲惨な境遇が明らかに!

次のページでは、どこかの団地とそばの公園が描かれています。

団地の中のある一室に、少年はいました。

そして、少年がなぜ無残な姿になったのかが説明されます。

少年はある夏の日、初めて熱帯魚を買いました。

喜び勇んで、家へ走って帰ろうとします。

そして、T字路に差し掛かった時でした。

少年の目の前には、猛スピードで迫ってくるダンプトラックの姿が・・・。

少年がトラックにはねられ、両腕・両脚、そして左眼を失う様が、影絵のように表現されています。

リアルではない分、このシーンがむしろ怖いのです。

少年は事故後も、時々その瞬間を思い出し、発作に襲われます。

具体的には描かれていませんが、トラックはそのまま逃走。

いわゆる「ひき逃げ事件」です。

 

少年の楽しみは、熱帯魚を眺めることだけ・・・。

その後、少年は自力では、家から一歩も外に出られません。

声も失い、しゃべることもできません。

唯一の楽しみは、大きな水槽の中の熱帯魚を眺めることでした。

ここまで読んだだけで、普通の怪奇マンガとは異なる種類の怖さに、心がヒンヤリと冷たくなり、震えてしまいます。

ちなみに、作品の所々に実在の熱帯魚の絵と、その説明が書かれています。

その説明が、物語の状況を暗示する形になっています。

日野先生は高校卒業後、しばらく熱帯魚を売る店でアルバイトなさっていました。

 

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少年は母親と二人暮らし。母親は早朝から仕事へ・・・。

ここで、

「少年の家族はどうしている?」

との疑問が浮かびます。

夕方になると、少年の母親が帰ってきます。

日中は仕事に出かけています。

少年の父親も、少年の事故の後すぐに、同じくひき逃げ事故で亡くなってしまったからです。

少年と母親の母子家庭となりました。

母親は朝早くから仕事に出かけ、少年が起きる頃には姿がありません。

食事は用意されているのですが、食べさせてくれる人はいません。

少年は顔を食器に近付けて、犬のように食べ物を口に入れます。

母親は仕事から帰ると、少年の食べ残しを片付け、オムツの後始末、少年を風呂に入れるなど、献身的に世話をします。

夜遅くまで、内職もしています。

 

母親は夜の仕事に出ることに・・・。

そんなある日の夜、母親は少年に語り始めます。

「もっと楽に働いて、いいお金になる仕事があるんだよ。」

大人ならこの時点で、

「水商売だな。」

とピンと来るはずです。

作品の中でも、母親が着物を着て化粧をし、美しく変身します。

そして、夜の勤めに出るシーンがあります。

 

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少年に対する母親の態度に変化が・・・。

ここまでは、四肢を失い自由に動けない息子と、仕事と息子の世話に懸命な愛情溢れる母親という、ちょっと泣かせる話です。

しかし、日野先生の作品が、ただの感動作で終わるわけがありません。

その後の展開が、他の日野作品とは異なる形のトラウマを与えます。

夜の勤めに出始めた母親は、日に日に美しくなっていきます。

しかし、それと反比例するかのように、少年への態度が変化していくのです・・・。

大人が読めば、この作品の怖さの根源が分かると思います。

小〜中学生の読者には、まだ理解が難しいところでしょう。

しかし、何とも言えない怖さは感じるはずです。

 

復刻本では、単行本でカットされたページも掲載!

ネタバレ防止のため、ここから先の説明は止めておきます。

ちなみに、2020年(令和2年)にイカロス出版から出た上記の本では、「水の中」はいわゆる「完全版」です。

ひばり書房の単行本に収録する際に、

「残酷過ぎる」

という理由でカットされたシーンが、3ページ収録されています。

ただ個人的には、

「もっと怖いシーンだらけだよ・・・。」

と思うくらい、怖いシーンがたくさんあります。

絵的に怖いシーンもあれば、心理的に怖いシーンもあります。

 

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少年の絵が、途中から可愛く見える・・・?

主人公の少年は、前述の通りひき逃げ事故のため、見るも無残な外見です。

しかし、途中からどこか可愛く見えてきます。

日野先生が少年の絵を描き慣れてきたからでしょう。

最初のカラーページの辺りは、先生の中でもまだイメージが完成していなかったのかもしれません。

正直言って、少年の絵が怖過ぎます・・・。

 

現代では発表できない作品!

「水の中」が発表された1970年と、2021年(令和3年)では、

表現に関する許容範囲

が大きく変化しています。

現代の世の中では、こういう内容の話やキャラクターは、雑誌を含むあらゆるメディアで発表できないでしょう。

「水の中」に限らず、日野作品のほとんどは、新作として雑誌に掲載しようとすれは、ボツになってしまうはずです。

表現に対する世論による規制が、今よりはるかに緩かった1970年代だからこそ、発表が可能でした。

 

最後に・・・。

今回ご紹介した「水の中」は、日野先生が1968年(昭和43年)にデビューなさって2年後の作品です。

日野作品の入門編としては、ピッタリだと思います。

ただ、「日野日出志トラウマ!怪奇漫画集」で「水の中」の次に収録されているのは

「地獄の子守唄」

です。

日野作品随一のトラウマ作品とも言うべき、激コワ作品です。

この本をお読みになる際は、ご注意いただきたいと思います。

そして、心の準備もしっかり整えた上で・・・。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。