「ひばり書房」・・・。昭和40年代に生まれた人たちには、男女問わず何とも言えない記憶を残した出版社です。
Wikipediaによると、1947年8月に、東京都文京区小石川で創業されました。
1980年代に新宿区早稲田町に移転しました。
1988年(昭和63年)以降、新規の出版を行わなくなり、2004年(平成16年)11月に閉業しました。
ひばり書房とは、どんな出版社だったのか?
若い世代、特に平成生まれの人たちにとっては、
「ふーん、そんな出版社があったんだね。ジャンプやサンデー、マガジンみたいに、週刊コミック誌を出してたの?ヒットしたマンガは?」
という程度の興味しか呼ばないかもしれません。はっきり言って、集英社や小学館、講談社のようなメジャー出版社とは比較にならない、マイナー出版社でした。
1958年(昭和33年)~1959年(昭和34年)頃に別会社名義で「怪談」、自社名で「オール怪談」と、怪奇怪談ものの書籍を販売し始めました。
この頃には、主に時代劇やスパイものの貸本マンガを出版しており、看板作家は小島剛夕先生(子連れ狼の作画で有名)でした。
1959年(昭和34年)に「ひばりコミックス」を発売し始めます。この頃のシリーズは、マニアの間では「白枠」と呼ばれています。
白枠シリーズには怪奇作品も含まれるようになり、後に「エコエコアザラク」(秋田書店の「少年チャンピオン」)で大ヒットを飛ばす古賀新一先生の作品もありました(ただ、初出は他社の少女マンガ誌です)。
1970年(昭和45年)頃に、コミックスの表紙が黒く枠取りされているシリーズ(マニアは「黒枠」と呼びます)が発刊されました。
しかし、1975年(昭和50年)末頃に新しいレーベルが始動したため、黒枠シリーズは収束。1976年(昭和56年)3月に発刊された「(ひばり)ヒット・コミックス」(略称HC)に、白枠、黒枠を含む他の主要レーベルが統合される形となりました。
マニアに人気の黒枠シリーズとは?
前述しました「黒枠」シリーズは、怪談・怪奇もの作品ばかりのシリーズです。
作品のレベルは玉石混交といった感じで、後に大家となる実力派から、一般の少年・少女誌では絶対載せられないレベルの作家(もどき)まで様々です。
ただ、どの作品も一種異様な「熱量」を持っていました。
絵のレベルもストーリーも「何だこりゃ!?」という作品でも、読者の心に
モヤモヤとひっかかる「何か」を残して(あるいは押し付けて)行きます。
そして、すぐには頭の中から消え去ってくれず、今で言う「トラウマ」を読者たちに植え付けるのです。
初めてひばり書房の本を目にしたあの日・・・。
私とひばり書房の最初の出会いは、確か小学三年生くらいの頃でした。
親戚の家に遊びに行った際、皆で近所に出かけました。その途中で本屋に寄り、本を買ってもらえることになりました。
本を品定めしていると、ふとレジ付近に目が留まりました。
レジの後ろにも本を置く小さい棚があり、本の表紙が見えるように並べていました。
そこにあった一冊の本の表紙は、背景が真っ暗な森のようでした。
そして、そこを歩いているのは・・・。
人間らしき姿で手足もあるのですが、体中がただれて水膨れがいくつもあり、そこから流れる液体らしきもので、体が色彩豊かに染まっていました・・・。
「蔵六の奇病」
というタイトルが、おどろおどろしい字体で書かれていました。
その下には、「日野日出志」と著者名がありました。
私は「見てはいけないものを見てしまった!」と本能的に目を逸らしました。
そして、本を買ってもらう時も、レジの後ろを見ないように視線を別の方向に向けていました。
近所の本屋に、ひばり書房コーナーが出来ていた!
しばらくして、家の近所の本屋に行くと、いつもマンガを置いてある辺りの一角が、黒くなっているように見えました。
「あれ?」と思い、近付いてみると、その一角に並んでいるコミックスの背表紙が黒色になっており、タイトルが毒々しい色で書かれていました。
一番下には、「ひばり書房」の文字が・・・。
ひばり書房のコミックスが大量に置いてあり、「ひばりコミックスコーナー」のようになっていました。
この時はまだ、これらのコミックスが後にひばり書房の「黒枠シリーズ」と呼ばれることなど、知る由もありませんでした。
そして、その中に「蔵六の奇病」のタイトルを見つけ、私はあのグロテスクな表紙のイラストを思い出してしまいました。
記憶に残っていた著者、日野日出志先生の作品は、それ以降に立ち読みで何作か読みました(買って家で読む勇気は、その頃の私にはありませんでした・・・)。
同級生が、学校にひばりコミックスを持ってきた!
小学五年生くらいになると、同級生の女の子が学校にひばり書房のコミックスを持って来るようになりました。
昼休みに給食を食べ終わると、他の女子生徒や、男子生徒まで呼んでそばに来させ、一緒にひばりのマンガを読んでいました。
私も何回も呼ばれ、その子の席のそばに立ち、のぞき込むようにして一緒に読んでいました。
女の子の一人が
「一人で読むのが怖いの?」
と尋ねると、持ってきた子は
「うん。一人では怖くて読めないから、学校でみんなにそばに来てもらって読んでる。」
と答えました。
怖くて読めないなら、買わなければいい!というツッコミが入りそうですが、当時の私には、何となくその子の気持ちが分かりました。
「怖い!けど読みたい!」
という相反する感情の下、本屋でひばりのマンガに手が伸びてしまったのでしょう。
不思議なことに、ひばりのコミックスを持って来るのは、女子生徒ばかりでした。特に女の子向けに限定された内容ではなく、男の子が読んでも全くおかしくはなかったのですが、男子で学校に持って来る子はいませんでした。
かく言う私も、自分では一冊も持っていませんでしたが・・・。
一人では読めないと告白するのが恥ずかしかったのでしょうか?
それとも、女の子の方が「怖いこと」への耐性が強かったのでしょうか?
最後に・・・。
2020年(令和2年)8月現在、ひばり書房のコミックスを新刊で購入することはできません。
しかし、古書店やネットオークションなどで、ひばり書房の恐怖・怪奇マンガたちは、その毒々しい色彩をアピールしながら、次の「獲物」を待ち構えているのです・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。