クセが強すぎる「泡沫候補」に、今の日本社会と政治はどう映っている?

私は、1980年代末期からの「泡沫候補」ウオッチャーです。

「泡沫候補って何?」

という方のため、説明します。

「泡沫候補」とは、選挙において当選の見込みが著しく低い候補者です。

メジャーな政党に属せず、無所属で立候補する人、または自分で政党、政治団体を立ち上げて立候補する人が大多数です。

芸能事務所「大川興業」の大川豊総裁は、泡沫候補に造詣の深い方ですが、愛情を込めて「インディーズ候補」と命名しました。

フリーライターの畠山理仁さんは、泡沫候補たちを描いた著書「黙殺」にて、「無頼系独立候補」と命名しました。

1980年代後半~1990年代前半のバブル期と比べ、法律変更などにより、泡沫候補が出馬しにくい状況となりました。

政党イコール「その他の政治団体」ではないのですが、参議院では政治団体は政党に準じた取り扱いをされています。

しかし衆議院では、非政党候補は、小選挙区で政権放送を行うことができません。

小選挙区と比例区の重複立候補も禁止されています。

そして、資金面での問題も泡沫候補には頭痛の種です。

例えば衆議院では、出馬のための供託金として、選挙区では300万円、比例区では600万円が必要です。

得票数が投票総数の10%に達しないと、供託金は返還されず没収されてしまいます。

泡沫候補には、10%は恐ろしく高いハードルです・・・。

それだけでなく、マスコミの扱いについても、泡沫候補は不利な立場に置かれています。

例えば、日本記者クラブ主催の討論会に参加できません。

というより、最初から招待されません。

それに加えて大手新聞社は、法務省や旧自治省と協力し、泡沫候補を締め出すことに熱心です。

つまり、記事に取り上げず、徹底して無視するのです。

たまにマスコミが泡沫候補を取り上げる際に、常套句として用いられるのが、「独自の戦い」という言葉です。

確かに、マトモな選挙運動をしない(あるいはできない)泡沫候補も多いので、正確な表現ではあると思います。

しかし、バブル崩壊以降も、泡沫候補の系譜は途切れることがありません。

近年では、ドクター中松、羽柴誠三秀吉(故人)、マック赤坂などが、著名(?)な泡沫候補として挙げられます。

ちなみに、マック赤坂さんは前回の東京都港区議会選挙に当選してしまい(笑)、区議会議員となられたので、泡沫候補からは卒業となりました。

 

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今までに強烈なインパクトを残した泡沫候補5人!

 

①斉藤旾義(はるよし)

1989年(平成元年)参議院選、1993年(平成5年)衆議院選に出馬しました。このブログでも度々言及している、伝説のラジオ番組「誠のサイキック青年団」で大きな話題になり、サイキッカーと呼ばれたリスナーたちの間では、「京都の斉藤さん」としてカルト的な人気を得ました。

前述の大川豊総裁の著書に、斉藤さんも載っている選挙公報が収録されています。

斉藤さんの経歴には、「元印刷会社勤務」と記されていましたが、

選挙公報が手書きでした・・・。

それも、かなりクセの強い字体です。

文章には色々なことが書かれていましたが、主な主張は次の二点に集約されます。

① 「私は、日本の国土の所有権及び統治権を、マッカーサー元帥からもらいました。」

② 「現在の日本の憲法、民法などの法律は、全てニセモノです。」

何ともダイナミックな世界観で、強烈なインパクトです。

我々日本人は、偽りの国家制度の下で生きていたということです・・・。

 

②東郷健(故人)

衆議院選・参議院選・東京都知事選など様々な選挙に出馬しました。関西学院大学を卒業後、銀行員などを経て、東京でゲイバーを経営。並行してゲイ雑誌、ゲイビデオも制作していました。後に、「雑民党」を設立し、代表となりました。

1990年(平成2年)衆議院選に立候補した時の政見放送をリアルタイムで観たのですが、東郷さんは白い絣(かすり)の着物という出で立ちで登場。放送禁止用語を連発していました。

この時は、雑民党ではなく「地球維新党」という政党名で出馬していました。

「維新」という言葉を、「日本維新の会」よりはるかに先に使っているところに、時代を先取りし過ぎている感じがうかがえます。

法律上例外はあるものの、基本的にはNHKが政見放送の内容をカットしたり、音声に「ピー」を入れるなどの編集を行うことはできません。

公共の電波が、その時だけは放送コードを超越した、無法地帯と化すのです(笑)。

肝心の中身の方は意外にもマトモで、

「同性愛、セクシュアルマイノリティー、障害者への偏見や性差別の撤廃」

を主張していました。

現在のLGBT運動の先駆けともいうべき、先見の明のある主張でした。

また、「飲尿療法の推進」も主張していました・・・。

しかし、ご本人のパンチの効き過ぎたルックスや、過激な発言に関心が集中してしまい、そうした先進的な主張は霞んでしまいました。

 

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③泉がぼう

1989年(平成元年)参議院選に出馬しました。前述の「サイキック青年団」でも話題になりました。

政見放送では、自らの悲惨な生い立ち、現在の苦しい生活について話し続けたそうです。今の状況から抜け出すため、何とか当選したいという正直(?)な気持ちを吐露したとのことです。

結論として、選挙公約らしきものをあえて挙げるなら、

「助けてください!」

だったそうです。

「選挙って、他人を助けようとする人が出るんじゃないの・・・?」

誰もがそう考えるはずです。

この人も、独自の世界観の持ち主です。

最近インターネットで、当時の参議院選挙の結果を調べてみました。

定数3名に対し、15名が立候補。

泉さんは当然落選したのですが、15名中なんと9位でした!!!

得票率は0.1%で、供託金は没収ですが、3904票を獲得しました。

それにしても、選挙公約が「助けてください!」の人より下位だった、10位~15位の候補者たちは、どんな気持ちだったのでしょうか・・・。

 

④内田裕也(故人)

昨年亡くなった、ロックミュージシャン兼俳優です。知名度で言えば、泡沫候補と呼ぶのは相応しくないかもしれません。

1991年(平成3年)東京都知事選に出馬しました。

政見放送は、有権者である東京都民に、自らの主張を伝える場であるはずですが、なぜか日本語を用いず、

英語と一部フランス語でスピーチしました・・・。

グローバルな発想は素晴らしいのですが・・・。

 

⑤松下幸治

1999年(平成11年)大阪市長選に、当時27歳で無所属で出馬しました。

選挙公報の顔写真は、写真スタジオでプロのフォトグラファーに撮影してもらい、斜め45度辺りからの角度で、首や肩より少し下くらいまで写っているのが一般的です。

しかし、松下さんの場合、

真正面を向き、フレームほぼいっぱいに顔が写っていました・・・。

明らかに、3分間写真の機械で撮影した写真です。

選挙公約の一つが、

「自分が当選したら、今の大阪市長を副市長にする。」

という大胆不敵なものでした。

結果は落選、得票数は26507票(得票率3.99%)でした。

大阪市民は、過剰なまでに人情に厚いことが分かります(笑)。

2005年(平成17年)にも再度大阪市長選に出馬しましたが、落選。

しかし、得票数46709票(得票率6.86%)と、前回よりも健闘しました。

大阪市民の中には、選挙にも笑いを求める人が万単位でいたようです。

しかし、2013年(平成25年)に大事件が起こります。

大阪府のお隣り奈良県の、奈良市議会選挙で、

松下さんが当選しました!!!

前述のマック赤坂さんと同様、泡沫候補の卒業生となりました。

それから4年後、2017年(平成29年)の奈良市議会選挙に、松下さんは再選を目指して立候補しました。

「日本維新の会」公認候補として・・・。

しかし、地方政党「大阪維新の会」から誕生した国政政党「日本維新の会」とは、何の関係もありません。当然、公認も受けていません。

「それって、完全な選挙違反では?」

という疑問をお持ちの方々も多いはずです。

ところが、違反とはならかったのです。

選挙の前年、2016年4月に、松下さんは地域政党「日本維新の会」を設立し、自ら代表者となって、設立届を総務省に提出しました。

本来なら、先に設立され届出もなされている政党と同じ名称だと、届出は受理されないはずです。

ところが当時、本家であるはずの国政政党「日本維新の会」は、どういうわけか党の正式名称を一時的に、「おおさか維新の会」として総務省に届出していたそうです。

松下さんが政党設立届を出した時期には、「日本維新の会」という政党名を正式名称とする政党はない状態でした。また、松下さんの政党はあくまでも地域政党であり、国政政党ではありませんでした。

松下さんの地域政党は、「日本維新の会」として受理されていたのです。

本家の国政政党も、同年8月には名称を当初の「日本維新の会」に戻したのですが、松下さんの「日本維新の会」は2017年の選挙の際もそのままでした。

本家の国政政党や、本家から正式に推薦を受けていた候補者たちは、当然猛抗議しました。

しかし、結局抗議は認められませんでした。

定数39名、立候補者50名で争われた選挙の結果、

松下さんは39位で、最下位当選を果たしました!

本家から公認を受けていた候補者は、何と落選してしまいました・・・。

2020年6月現在も、奈良市議会議員です。

今後の動向に要注目です。

 

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最後に…

選挙は、日常とは異なるいわば「ハレ」の場です。

一般人を超越した世界観を持つ人々が、その「ハレ」の場で自己を表現するために集まってきます。

一般人の有権者からは「電波系」などと呼ばれ、馬鹿にされる宿命を背負っています。

しかし、現在の「マトモ」なはずの議員(国会から村議会に至るまで)の振る舞いはどうでしょうか?

買収などの選挙違反、贈収賄、暴行傷害、痴漢、差別的発言、公金の不正流用、コロナ禍でのパーティー・会食、マスクの高値転売、公文書改ざんのもみ消し、友人・知人への利益供与・・・。ここに書ききれないほどの、「電波系」あるいは「トンデモ」な言動に日々明け暮れています。

そんな人間たちを当選させた我々有権者は、決して泡沫候補たちを笑える立場にありません。

現在の「残念」な日本社会は、泡沫候補たちの眼にどう映っているのでしょうか?

また、彼らはどんな思いを抱いているのでしょうか?

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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