ネタバレなし:映画「蜘蛛女のキス」は名優二人の演技対決!

近年のアメリカ、ハリウッド映画に幻滅している映画ファンは、かなり多いはずです。

人によっては「絶望」していると言うべきでしょうか。

確かに、中身のない薄っぺらな作品が多過ぎます。

SFやアクション物、アニメがダメとか言う気は、全くありません。

どんなジャンルであろうとも、名作は名作です。

ただ、現在のハリウッドには

「企業家」

「投資家」

「コンサルタント」

は多数存在しても、

「作家」

「芸術家」

は非常に少ない感じです。

 

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今の時代には作れない映画!

今回紹介する映画

「蜘蛛女のキス」(英語題:Kiss of the Spider Woman)

(ポルトガル語題:O Beijo da Mulher−Aranha)

は、21世紀のハリウッドでは絶対に作れないであろう作品です。

1985年(昭和60年)の作品で、アメリカとブラジルの合作です。

そのため、ポルトガル語題が付いています。

内容的には、どこからどう見ても全く

「商業主義」

のかけらもありません。

1985年当時でさえ、よく制作できたものだと感心します。

 

原作者も監督も南米人!

本作は、アルゼンチン人作家の

マヌエル・プイグ

が1976年(昭和51年)に発表した小説が原作です。

プイグは1973年(昭和48年)に、亡命して母国を離れました。

亡命生活の中で、本作を執筆しました。

監督は、東欧にルーツを持つユダヤ系ブラジル人監督の

ヘクトール・バベンコ。

高倉健さん出演の映画「ザ・ヤクザ」などで知られる脚本家

レナード・シュレーダー

が脚色を担当しました。

 

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舞台は刑務所!ゲイの男性と政治犯が出会う・・・。

物語の舞台は、南米の某国(原作では、アルゼンチンのブエノスアイレス)の刑務所です。

ゲイの女装男性モリーナ

がいる獄舎の一室に、新入りの囚人が入ってきます。

男の名はヴァレンティン。

反政府組織の活動家で、いわゆる「政治犯」です。

モリーナはヴァレンティンに興味を持ちますが、ヴァレンティンの方はモリーナに全く心を開きません。

二人は全く違う境遇で生きてきたのですから、当然ではあります。

そんな日々を過ごすうち、モリーナはヴァレンティンに、昔観たという映画のストーリーを語り始めます。

それを聞いている中で、ヴァレンティンの心の中で、次第に変化が起きてきます・・・。

 

主演二人の『演技を超えた』演技が凄い!

ネタバレ防止のため、詳しい内容はここまでにしておきます。

お分かりのように、映画の大半は

刑務所の牢屋の中

での、モリーナとヴァレンティンの会話です。

その途中途中に、モリーナが語る映画のシーン(歌手と将校の恋物語)が挿入されます。

モリーナを演じるのは

ウイリアム・ハート。

ヴァレンティンを演じるのは

ラウル・ジュリア。

二人とも本作出演時点では、売れっ子のスター俳優ではありませんでした。

しかし、二人の演技がとにかく凄いのです。

観る側も映画だと当然分かっています。

ですが、観ているうちに段々と

「映画と現実の境目」

が分からなくなるような錯覚に陥ります。

二人とも、大げさな芝居は全くしていません。

しかし映像の中では、完全にモリーナとヴァレンティンに

「なっている」

のです。

「演じている」

を完全に超越しています。

 

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役の交代を監督に申し出たが・・・。

昔ある本で、本作の撮影裏話を読んだことがあります。

撮影中のある時、バベンコ監督が二人の役を入れ替えて演じさせたそうです。

すると、ラウル・ジュリアはモリーナ役を難なく上手に演じてみせました。

ウイリアム・ハートはショックを受けました。

後で監督に

「このままラウルがモリーナを演じ、私はヴァレンティン役で撮影をやり直してください。」

と申し出たそうです。

しかしバベンコ監督は、

「いいや、君がモリーナを演じるんだ。」

と、ハートの申し出を認めませんでした。

 

追い詰められて底力を発揮!主演男優賞を総ナメ!

ハートは、精神的に追い詰められました。

悩んだ末、ついに腹をくくります。

「こうなったら、ラウルが演じたよりも上手く、完璧にモリーナを演じるしかない。」

そして、一世一代とも言える名演技を披露。

ジュリアもそれに応えるように、ヴァレンティン役を熱演。

その結果、ハートは

第39回(1985年)英国アカデミー賞で主演男優賞

第38回(1985年)カンヌ国際映画祭で男優賞

第58回(1986年)米国アカデミー賞で主演男優賞

の「三冠」に輝きました。

 

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主演二人は、その後違ったキャリアを歩んだ!

この作品以降、ウイリアム・ハートの作品選びのスタンスは変わりました。

たとえ無名監督の作品、制作費の少ない「小品」の作品でも、自分が脚本を気に入れば出演するというものです。

反対に、超大作でも気に入らなければ出演しません。

一方のラウル・ジュリアは、ジャンルを選びませんでした。

シリアスな作品はもちろん、

「アダムス・ファミリー」(お父さん役を怪演)

「ストリートファイター」(日本のゲームソフトが基)

といった作品にも出演しました。

ジュリアは1994年(平成6年)10月、54歳でこの世を去りました。

早過ぎると言わざるを得ません。

ハートも2022年(令和4年)3月、72歳の誕生日を目前にこの世を去りました。

 

最後に・・・。

原作者のマヌエル・プイグも(1990年)、監督のヘクトール・バベンコも(2016年)、あの世へと旅立ちました。

しかし、この映画はこれからも生き続けます。

より多くの方に、この名作を観て欲しいと願います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

興味がございましたら、こちらもお読みください。

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