「夏目漱石」
について、ここで詳しく説明する必要はないでしょう。
明治後期〜大正初期に活躍した小説家であり、日本文学史に欠かすことのできない文豪の一人です。
「吾輩は猫である」
「坊っちゃん」
「こころ」
「草枕」
などの名作群は、令和3年の今でも書店などで購入できます。
新聞に連載された小説。気軽に読める!
漱石と聞くと、
「とっつきにくそう。」
という印象をお持ちの方も多いでしょうが、「坊っちゃん」のように気軽に読める作品もあります。
今回ご紹介する
「三四郎」
も、肩肘張らずに読める作品に分類できるでしょう。
「三四郎」は、1908年(明治41年)に「朝日新聞」に連載された新聞小説です。
現代でも、新聞に小説を連載するのは、文学賞を獲得したり作品が映像化される
「有名作家」
と相場が決まっています。
主人公は、熊本から上京した大学生!
主人公は、小川三四郎。
熊本の高等学校(昔の旧制五高)を卒業し、東京帝大(今の東大)文科へ進学するため上京して来ました。
物語の最初からしばらくの間、東京行きの汽車(途中の名古屋での宿も含む)での出来事が描写されます。
この部分で既に、福岡出身の「田舎の青年」である三四郎が、首都東京での生活にすんなり溶け込めそうにないことは、読者にも想像できます。
東京で出会う人々も個性的な人物が多く、三四郎を困惑させます。
同級生、先輩、高校の先生・・・変わった人揃い!
帝大の理科(おそらく理学部か工学部)で研究をしている
野々宮宗八
は、どうにも掴みどころのない人物です。
学問研究以外は、全て二の次のような感じです。
同級生で友人となる
佐々木与次郎
は、野々宮とは正反対とでも言うべき、お調子者の人物。
東京生活が長いようで、三四郎に何かと助言をしてきますが、万事どこかいい加減で行動にも落ち着きがありません。
三四郎は、与次郎に色々振り回されます。
その与次郎の下宿先の主が、高等学校の教師をしている
広田先生
です。
野々宮の師匠らしく、この人も出世はもちろん、世事に関心の薄い人です。
与次郎曰く「偉大なる暗闇」。
三四郎も広田先生には敬意を抱きますが、やはり言動には困惑を隠せません。
ヒロイン美禰子は『いいとこのお嬢様』?
ここまでは男性しか挙げませんでしたが、もちろん女性も登場します。
本作のヒロインと言うべき存在が、
里見美禰子(みねこ)
という女性です。
最初は、三四郎が大学の近くの池のほとりで見かけるだけでした。
その後ある場所で顔を合わせ、知り合います。
実は美禰子は野々宮とも知り合いで、野々宮の妹よし子とは友人です。
作品中では、美禰子の詳しい家庭環境は語られていません。
しかし、兄の恭助が帝大の法科出身であること、美禰子が広田先生に英語を習っていることなどを鑑みると、裕福な家庭の女性だと推測できます。
美禰子の美しさと謎めいた言動に、三四郎は心惹かれていきます。
単なる恋愛話にはならず、若者の孤独と悩みを描く!
とは言っても、明治末期の新聞小説です。
「若き東大生とお嬢様のムズキュンストーリー!」
のような安物のラブコメにはなるはずがありません。
現代でも同様でしょうが、田舎から単身東京へやって来た若者は、程度の差こそあれ皆
「孤独感」
に苛まれます。
三四郎も、勝手の分からない大都会東京での生活、大学の単調な授業、人間関係の希薄さに直面します。
与次郎や広田先生、野々宮兄妹、そして美禰子と付き合うことで、何とか東京での居場所を確保します。
しかし、美禰子との関係は進展しません。
与次郎が起こしたある騒動をきっかけに、少しずつ美禰子との距離は縮まるのですが・・・。
田舎出の秀才も、東京の知識人の中では『よそ者』?
それと時を同じくして、三四郎は与次郎が広田先生を世に出すための運動に、行きがかり上参加します。
とは言っても、先生は全く関知せず、与次郎が勝手に水面下で事を進めているだけなのですが・・・。
三四郎は、学生たちだけでなく、様々な知識人の集まりにも顔を出します。
三四郎自身も、明治末期(日露戦争後)の日本では、間違いなく
「エリート」
の一人です。
故郷で一人暮らす母親から毎月仕送りをもらい、東京帝大で学ぶ
「田舎の秀才のお坊っちゃま」
です。
しかし、東京のいわゆる
「知識人」
たちと如才なく付き合うこともできず、
「よそ者」
のような気持ちを抱きます。
文豪の意図はともかく、優れた『青春小説』である!
物語の舞台こそ、100年以上前の東京です。
しかし作品で描かれる、三四郎の揺れ動く心は、2021年の今を生きる若者の心とも通じるはずです。
学問、友情、恋愛、人生・・・。
漱石がそうした
「若者の青春」
を本作の主要テーマにしようとしたのかは、私のような素人には全く分かりません。
ただ、結果的に優れた
「青春小説」
が生まれたという事実は明らかです。
最後に・・・。
私が初めて「三四郎」を読んだのは、20歳の夏でした。
ある理由で、本を読むくらいしかすることがありませんでした。
そこで、「こころ」、「それから」、「三四郎」と三冊続けて読みました。
三冊の中で最も内容がヘビーかつ難解な、「こころ」を最初に読むという大失敗をしました。
続く「それから」も、不倫の恋愛が絡んだ内容で、二冊読み終わった時点で
「もうお腹いっぱい・・・。」
となってしまいました。
三冊目の「三四郎」を読み進むにつれ、気分が多少スッキリしたのを覚えています。
作中に出て来る
「stray sheep」(迷える羊)
は、新約聖書の中の言葉らしいですが、この作品で知りました。
漱石デビューをお考えの方には、是非お勧めしたい作品です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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