以前このブログで、
「新聞第一面の下の広告に、掘り出し物の本がある!」
という内容の記事を書きました。
我が家では、新聞を取っていません。たまに勧誘が来ても、即座に断っています。新聞がなくて困ったことは、一度もありません。現代のネット社会では、必要な情報は新聞以外からも得られるからです。しかし、嫁や私の実家では[…]
私の今までの経験に照らすと、第一面に限らず新聞広告で目にした本には、
「当たり」
の作品が多数ありました。
嫁の実家で目にした新聞の、新刊広告に・・・。
今年2022年(令和4年)の4月頃でした。
嫁の実家を訪問し、食事の後に、リビングの新聞をパラパラとめくっていました。
するとページ下部に、大手出版社「集英社」の新刊広告が出ていました。
その中の「集英社新書」の部分に、気になるタイトルを見つけました。
「僕に方程式を教えてください 少年院の数学教室」
まさしく書名の通り、少年で数学を教えるという内容でしょう。
興味を持ちましたが、家に帰るとすぐに忘れてしまいました・・・。
引っ越しをして、落ち着いた頃にふと・・・。
その後、6月末の引っ越しの準備で、忙しくなりました。
1ヶ月ほどして、ようやく落ち着きました。
そんなある日、突然
「新聞で、少年院で数学を教えるとかいう本の広告、出てたよな・・・。」
と思い出しました。
Amazonで調べると、新聞広告と同じ書名の本が見つかりました。
早速注文し、読んでみました。
偶然を機に、3人の専門家が『少年院での数学』に!
著者は
髙橋一夫さん(数学指導者。初心者向けの著書多数)
瀬山士郎さん(数学者・数学教育者。群馬大学名誉教授)
村尾博司さん(元少年院院長。各地の院長を歴任)
の御三方。
各人1章ずつ、計3章から成ります。
御三方ともそれぞれ、全く異なる分野の専門家です。
しかし、様々な偶然が重なり、
「少年院での数学教育」
に協力して尽力なさることとなりました。
本書では、少年院という特殊な環境で、いかに数学を教えるかについての試行錯誤ぶり、入所者の少年たちとの交流などが描かれています。
ここでは詳細は省略しますので、興味をお持ちの方は、本書を実際にお読みください。
『涙と笑い』物語ではなく、れっきとした教育書!
書名だけ見ると、
「教師と少年の、涙と笑いの感動物語」
を想像されるかもしれません。
しかし本書は、決して
「お涙頂戴」
の本ではありません。
もちろん少年たちと授業を通じて、心を通わせていくプロセスも描かれています。
感動させる内容も含まれています。
しかし、ただそれだけではありません。
れっきとした
「教育書」
でもあります。
少年たちに共通しているのは、数学を含めた基礎学力が低いという点です。
様々な事情により、義務教育のレールから外れていきました(または外された)。
教育や学習、そして教師や大人に不信感・嫌悪感を抱いています。
また、普通の学校のように全員が同じ期間、最初から最後まで授業を受けられるわけではありません(少年たちの入所・退所時期はバラバラ)。
そうした様々な物理的制約、心理的障壁に直面しながら、御三方及び少年院の法務教官などの関係者が創意工夫していく過程も描かれています。
『数学書』としても、読み応えあり!
そして、本書は
「数学書」
としても楽しく読めます。
「どうせ中学レベルの話だろ?」
とバカにするなかれ。
分数の考え方や数の大小、正負の概念、二次方程式の解の公式などについて、
「目からウロコ」
とも言うべき考え方を教えてくれます。
「一冊で何度でも美味しい」
本なのです。
なぜ『二次方程式』を教えるのか?
書名の中にもある「方程式」のうち、
「二次方程式」
を少年たちに理解してもらうことが、髙橋さんと瀬山さんの指導の大きな到達点の一つです。
二次方程式を教える中で、小学生レベルの内容も混ぜ込んで教えていきます。
「小学生のレベルからやり直しだ!」
という姿勢だと、少年たちのプライドを傷付けてしまうという配慮です。
また、二次方程式を理解することで、
「抽象的思考力」
を身につけられます。
今後少年院を出てから、他の分野を学習する際の基礎にして欲しい、という狙いも含まれています。
普通の学校よりも、むしろ高度な戦略に基づいてカリキュラムが考えられていることに驚きます。
妥協・手抜きは一切なし!数学的思考の基本を伝える!
髙橋さんと瀬山さんは、
「少年院向けの数学だから、これくらいでいいだろう。」
という妥協を一切せず、
「数学的思考の基本」
を、少年たちにしっかり習得してもらうことをポリシーとなさっています。
「高等学校卒業程度認定試験(高認)」(昔の大検)
対策の授業では、さすがに合格を最優先とした授業をなさっています。
しかし、
「単なる受験技術の伝授」
だけにはしたくないとの共通認識をお持ちです。
少年院は、『矯正・更生』と同時に『教育』の場!
村尾さんは少年院の院長としてと同時に、教育者として、髙橋さんと瀬山さんの考えに大いに共感なさいました。
そして、できる限りの協力を惜しまずなさったことが、文章から伝わってきます。
少年院は単なる
「矯正・更生」の場(それが最重要ですが)
だけでなく、
「教育」の場
でもある
という視点は、我々の多くに欠けている視点です。
教育なしでは、矯正・更生もその場限りとなり、持続しない可能性が高まります。
最後に・・・。
この本は、現在の小・中・高12年間の学校教育についても、様々な示唆を与えてくれます。
小・中・高など全ての学校の先生方、及び教育関係者は、必ず読むべき本だと断言できます。
全国の書店の方々も、訳の分からないタレント学者・評論家の本を山積みしている場合ではありません。
この本がもっと売れ、多くの人に読まれるよう、尽力していただきたいものです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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