音楽の世界で長期間生き残ることは、実はヒット曲を出すより難しいことかもしれません。
日本でも毎年、数多くの歌手やバンドがデビューします。
しかし圧倒的大多数は、ヒット曲に恵まれず芽が出ないまま、2〜3年ほどでレコード会社との契約を打ち切られます。
ヒット曲が出て世間に認知されても、勢いが続かず消えて行く人たちが多いのです。
いわゆる
「一発屋」
です。
英語では一発屋のことを
one−hit wonder
と表現します。
「wonder」には名詞として
「不思議な物[事、人物]」
「素晴らしい物」
という意味があります。
「一曲限りの素晴らしい歌」
という感じが出ていて、まさに一発屋を表しています。
FMラジオ局の過去のチャートを調べていると・・・。
1989年(平成元年)に大阪で開局したラジオ局
FM802
を、学生時代によく聴いていました。
ほぼ毎日と言っていいほどです。
2023年(令和5年)は開局34周年となりますが、30年を超える長きにわたり無数の楽曲を電波に乗せてきました。
FM802のWebサイトでは、開局以来毎月の
邦楽・洋楽ヘビーローテーション
年間チャートトップ10
などのデータを確認できます。
先日それらを閲覧していて、1992年(平成4年)のところで目が留まりました。
曲名を見た瞬間、頭の中にメロディーが!
洋楽の年間チャート第2位となったのが、
‘‘I’m Too Sexy’’
という曲。
‘‘Right Said Fred’’
というバンドの曲です。
1992年1月に初めてチャートインし、25週間チャート入り。
最高位は1位でした。
「ああ、この歌よくかかってた!」
と、頭の中にメロディーが流れ始めました・・・。
「Right Said Fred って誰?」
という反応が、最も予想できる答えでしょう。
令和の若者たちは当然として、1992年当時若者だった、今の50歳代以上の人たちにも、かなり馴染みの薄い名前でしょう。
デビュー曲で全米No.1に輝いた、英国人兄弟!
‘‘Right Said Fred’’ (ライト・セッド・フレッド)
は、イギリスのポップバンドです。
1989年に、リチャードとフレッドの
フェアブラス兄弟(Fairbrass brothers)
により結成。
デビュー曲が ‘‘I’m Too Sexy’’ でした。
地元イギリスでは、全英チャート最高位2位という大ヒットとなりました。
ただ不運なことに、ちょうどその時期にはブライアン・アダムスの
‘‘(Everything I Do )I Do It For You’’
が特大ヒットを記録しており、1位には届きませんでした。
しかし、海を越えたアメリカでも大ヒットし、全米チャートでは見事1位に輝きました。
ちなみに、イギリスのミュージシャンでデビュー曲が全米チャート1位に輝いたのは、ビートルズ以来のことだそうです。
ゲイ・ファッションのインパクトと、楽曲の良さが融合!
‘‘I’m Too Sexy’’ は、非常にノリが良く頭にも残りやすいです。
売れる曲の条件は、見事に揃っています。
それに加え、フェアブラス兄弟のルックスがインパクト抜群でした。
二人ともスキンヘッド、そして素肌がスケスケの黒のシースルーシャツ、そして黒のピチピチレザーズボン・・・。
典型的な
ゲイ・ファッション
です。
兄のリチャードは、後にインタビューで
「バイセクシャル」
だとカミングアウトしています。
女性も男性もOkなので、完全なゲイではありません。
一方、弟のフレッドはそうした類の話は一切していません。
なので、「本物のゲイ」なのか仕事上の「ビジネスゲイ」なのか、全く不明です。
今で言う
「LGBTQ」
の人々にターゲットを絞ったようなアピールだと言えます。
しかし、曲の完成度の高さと兄弟のインパクト(一度見たら忘れない)のおかげで、1991年(平成3年)のリリース以降、一般の音楽ファンにも受け入れられました。
それが世界的メガヒットにつながり、翌1992年には日本でも大旋風を巻き起こしました。
FM802に限らず、他の在阪FM局でも、とにかく流れまくっていた印象があります。
次の局も英国や日本では売れたが、米国では・・・。
続く2曲目の
‘‘Don’t Talk Just Kiss’’ (1991年)
も、1992年後半辺りから日本でもよく流れるようになりました。
全英チャートでは、最高位3位にまで上昇しました。
ところが、全米チャートではトップ10にも入れず、何と76位止まりで終わってしまいました。
デビュー曲 ‘‘I’m Too Sexy ’’ の印象が余りにも強過ぎて、その幻影を払拭できなかったのでしょう。
アメリカでは、典型的な「一発屋」の王道を歩んでしまいました。
日本の音楽市場は、アメリカのヒットチャートに大いに影響を受けています。
そのため、アメリカで売れないと、日本の音楽ファンへのアピールもしにくくなります。
それ以降、‘‘Right Said Fred’’ の名前は日本のファンから忘れられて行きました・・・。
解散したと思っていたが・・・!
私も、とっくに解散したものと思い込んでいました。
しかしインターネットで調べてみると、2023年現在
‘‘Right Said Fred’’ はまだ活動していました!
デビュー当時もフェアブラス兄弟の他には、メンバーは2人くらいしかいませんでした。
現在は兄弟2人のみです。
ライブやレコーディングの際は、サポートミュージシャンを集めるのでしょう。
‘‘Don’t Talk Just Kiss’’ の次の
‘‘Deeply Dippy’’ (1992年)
は、日本ではラジオなどで流れていた記憶がありません。
しかし、イギリスでは全英チャート1位を獲得していました。
そして、デビューアルバム「UP」以降も、さらに8枚のアルバムをリリースしていました。
勝手に解散扱いして、すいませんでした・・・。
最後に・・・。
現在は、半ばインディーズ的に活動しているようです。
ですが、英国やその他の欧州地域では、それなりの知名度を保っている模様です。
‘‘I’m Too Sexy’’ がスポーツイベントなどで流されたり、他のミュージシャンにカバーまたはサンプリングされたりしているのが、主な理由でしょう。
「昔の名前で出ています」
的な印象を持たれるかもしれません。
しかしそれでも、30年以上音楽活動を続けている点は、素直に称賛に値します。
その意味では、彼らは決して一発屋ではないのです。
21世紀は多様性の時代と言われ、LGBTQへの理解が少しずつではあるが進んでいます。
今だからこそ、‘‘Right Said Fred’’ が再び脚光を浴びるべき時かもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。