私は長年、債権回収の業務、つまり
「借金取り」
の仕事に携わっていました。
このブログでは、仕事の中で学んだ知識や、自分の経験などをいくつも記事として書いてきました。
不動産関連の記事も数本あります。
お金の貸し借りにおいて、頻繁に登場するのが不動産です。
高額の融資の際、お金を借りる債務者が、自分または連帯保証人の所有不動産を担保として差し出すのは、金融取引では一般的です。
通常の登記である本登記に対し、『仮登記』とは?
お金を貸す債権者が、抵当権などの登記の権利者となります。
融資金が返済されない場合は、不動産が売却され、売却代金から優先的に返済を受けます。
通常は、必要書類全てが法務局に提出され、正式に登記されます。
こうした登記は
「本登記」
と呼ばれます。
民法177条の公信力を持ち、第三者に対抗できます。
この本登記に対し、
「仮登記」
というものが存在します。
「仮」とは、一体どういうことでしょうか?
仮登記には二種類ある!
不動産登記法105条によると、仮登記は「1号仮登記」と「2号仮登記」に分かれています。
大雑把に言うと、1号仮登記は
「売買などによって権利変動は生じたが、登記申請に必要な手続条件が整っていない場合」
に行われます。
例えば、本登記には絶対必要な
「登記識別情報」(以前は「登記済証」と呼ばれていました)
という書類を紛失した場合です。
次いで、2号仮登記は
「まだ権利変動は生じていないが、将来の請求権や条件付き権利を保全する場合」
に行われます。
例えば、農地の転用許可が下りることを条件に売買契約を結ぶ場合です。
仮登記が本登記に変わると、順位がキープされる!
仮登記は本登記と異なり、公信力はありません。
不動産所有者が別の第三者に不動産を売却し、所有権移転登記をすることも可能です。
しかし、申請によって
「仮登記が本登記に変更」
されると、仮登記より後に行われた別の所有権移転登記は、無効となります。
法務局の職権で抹消されてしまいます。
抵当権などの登記でも、仮登記より後になされた本登記は、仮登記が本登記に変わると、順位としては劣後します。
仮登記で順番をとりあえずキープできる、という特徴があります。
『街金』が仮登記を多用するのはなぜか?
今まで書いてきた通り、仮登記には一応筋の通った理由があります。
しかし、そうした本来の目的とは違った用途で、仮登記を行う個人・法人がいます。
世間で
「街金」
と呼ばれる、中小零細の金融業者の中には、仮登記を多用する業者が一定数存在します。
もちろん街金も、正式な契約に基づきお金を貸しています。
債務者などの所有不動産に抵当権などを付けさせることは、当然可能です。
にもかかわらず、なぜ一部の業者は仮登記を選ぶのでしょうか?
仮登記は、登録免許税が安い!
まず一つ目の理由は、
「本登記に比べて登録免許税が安い」
点です。
登記にも、登録免許税という費用がかかります。
例えば抵当権設定登記の場合、普通に本登記を申請すると
登録免許税 = 債権額 ✕ 1,000分の4
となります。
一方、仮登記を申請する場合
登録免許税 = 債権額 ✕ 1,000分の1
と、かなり安くなります。
仮登記でも、債務者たちへのプレッシャーに!
二つ目の理由は、仮登記であっても、債務者や連帯保証人にとってはプレッシャーであることに変わりない点です。
完済しないと、登記はいつまでも消えません。
また、他の債権者への牽制といった意味も持ちます。
他の債権者が不動産謄本を確認し、街金らしき所の仮登記があると
「あっ、街金に仮登記を打たれてる!この債務者、ちょっと危なそうだな・・・。」
と警戒します。
貸し込んで、不動産に抵当権を付けさせようとは、なかなか思わないものです。
最後に・・・。
私が債権回収の仕事をしていた頃、債務者の資産調査で、沢山の不動産謄本を見てきました。
前述のように、街金らしき法人が仮登記を打っていることが分かると、
「この債務者、あまり長くないな・・・。」
と予想したものでした。
いくつもの物件で、同じ街金業者の仮登記を目にすることもありました。
そうした不動産は往々にして、税金滞納などによる役所・税務署の差押登記、街金の仮登記などがベタベタ付いています。
完全に余力ゼロの状態です。
追い込まれているのが、ハッキリと分かります。
仮登記はある意味、破綻へのシグナルだと言えます・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
こちらも興味がありましたら、是非お読みください。
このブログでは、「不動産競売」「不動産仮差押」などの記事を時々書いています。私が債権回収、すなわち「借金取り」の業務に携わっていた頃の経験に基づいています。 [adcode][…]