法律事務所の関係者や金融業界の従事者以外の人々にとって、「裁判所」はかなりなじみの薄い存在でしょう。
テレビや新聞などで民事・刑事の注目度の高い裁判につき報道されているので、裁判所の外観や法廷の内部はご存知の方も多いはずです。
そして、裁判所だから裁判官が働いているのは当然です。
しかし裁判官だけでは、裁判所の日々の業務が回るはずもありません。
様々な事務仕事を行う人たちがいて初めて、膨大な数の裁判や法的手続が進行していきます。
『書記官』と『事務官』が裁判所の事務を進めていく!
そうした「事務方」を大きく二つに分けると
「書記官」
「事務官」
という職員が存在します。
「書記官と事務官って、何がどう違うの?どっちも事務をやるんじゃないの?」
とお思いの方が多いかと思います。
簡単に説明すると、まず事務官等として一定期間勤務した後に、
「裁判所職員総合研修所入所試験」
に合格する必要があります。
裁判所職員の採用試験は、かなりの難関!
そして、そこで約1~2年の研修を受けて、ようやく裁判所「書記官」の資格を得ることができます。
裁判所職員採用試験については、裁判所のWebサイトに詳細が載っています。
インターネットで合格率を調べてみると、総合職の「(大学)院卒者」、「大卒程度」、一般職の「大卒程度」、「高卒者」などの区分により異なります。
しかし年によっては、低くて7~8倍、高いと50倍以上という区分もあり、全体としてかなり難関です。
考えてみればそれも当然でしょう。
各種裁判事務や運営事務(総務、人事、経理など)に携わる仕事なのですから、一定レベル以上の法律知識や一般教養が必要となります。
そうした難関を突破して勤め始めても、実務経験を積みながらさらに勉強を重ねなければなりません。
そして、研修所への入所試験に合格~研修受講という長い過程を経て、書記官としてのスタートラインに立てるのです。
書記官には、様々な権限が与えられている!
書記官には固有の権限が付与されており(裁判所法第60条)、民事訴訟法や刑事訴訟法などに職務が定められています。
前述の裁判所Webサイトに、裁判所書記官に関する説明のページがあります。
そこには、
「法令や判例を調査したり、裁判が円滑に進行するように、コートマネージャーとして弁護士、検察官、訴訟当事者等と打合せを行うのも大きな役割です。」
と書かれています。また、
「裁判所書記官が立ち会わないと法廷を開くことができないので~」
とも書かれています。
その他にも調書作成、訴訟に関する証明や執行文の付与、支払督促の発付など、職務の内容は多岐にわたります。
書記官の声は『天の声』?
私が債権回収の仕事に携わっていた頃、裁判所との折衝や提出書類の作成は、基本的に法務部門の部署あるいは顧問弁護士の事務所が行っていました。
しかし、内容によっては回収担当者が書類を作成したり、裁判所書記官と直接話をすることもありました。
書記官から
「この書類のここの部分を、もっと詳しく書いて欲しい。」
「この書類のこの文言は、こう直して欲しい。」
などと依頼されたら、こちらは書き加えたり訂正する必要がないと思っていても、必ず言われた通りにせざるを得ません。
でないと、そこで裁判などの手続がストップし、先に進めてもらえないからです。
弁護士だったら自分の意見を主張することもあるかもしれませんが、債権回収の担当者や銀行員、企業の法務部門の担当者などは
「はい!おっしゃる通りに訂正して、再度提出いたします!」
という感じです。
ある意味、書記官の意見は「天の声」に近いです。
書記官はエリートだが、転身するケースも!
裁判所の書記官となっただけでもかなりのエリートと言えます。
ただ、聞いた話によると、書記官の中でも破産や民事再生などの法的整理を扱う部署の書記官は、さらにエリートだそうです。
また、最近はロースクール(法科大学院)があるので、事情が変わっているかもしれませんが、以前は裁判所の書記官や事務官として働きながら司法試験の勉強をし、合格後に弁護士・裁判官・検察官へと転身する人も時折いたそうです。
最後に・・・。
私がまだ20代の頃、仕事の都合で裁判所に電話をかけた時のことです。
当時は「書記官」と「事務官」の区分も知らず、裁判や競売、破産の部署にいる人は皆「書記官」だと思い込んでいました。
電話での会話が終わった後、相手が
「何かご不明な点がありましたら、また○○までお電話ください。」
言ってくれました。
私が
「ありがとうございます。もし質問させていただく際は、○○書記官様までお電話いたします。」
と答えると、
「いいえ、事務官です。」
と返され、気まずい思いをしました・・・。
それ以来、相手が「書記官」か「事務官」か不明の際には、「○○様」と言うように心掛けています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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