皆様の中で
「特定調停」
という言葉をご存知の方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。
法律関係や金融関係のお仕事に就かれている方々以外には、ほぼ耳なじみのない言葉でしょう。
「特定調停」とは、裁判所で行われる「調停」という手続の一種です。
「調停」とは、紛争当事者たちの意見を聴いた上で、双方が納得できる結論が出るよう調整することです。
裁判所で行われるので、当然裁判所が申立人と被申立人の間に立ち、調停しようとします。
特定調停は大抵、金を借りた側が泣きを入れて申立して来る!
特定調停を申立するのは大抵の場合、お金を借りている債務者です。
お金を貸している側の債権者(複数のことも多い)に対し、裁判所での話し合いに応じるよう、裁判所から呼出の通知が届きます。
指定の日時に裁判所へ出向くと、調停委員と呼ばれる人たち(弁護士や公認会計士、元銀行員など)が待っていて、そこで詳しい状況を説明します。
調停委員は事前に申立人(=債務者)や代理人弁護士と話をしており、そちらの希望条件などを伝えてきます。
債務者の希望することと言えば、
① 債務金額の減免
② 返済計画(返済期間、毎回の返済額など)の変更
③ 担保処分の保留、差押の解除
がほぼ全てです。
債権者は渋々調停に赴くことが多い!
反対に、債権者にとってはメリットはほとんどなく、特に上記の①については借金の棒引きになるので、債権者としては応諾できかねます。
調停については、被申立人(=債権者)が申立人の希望に必ず応じなければならないという、法的義務はありません。
条件が合わなければ、調停不成立により終了という事例はかなり多いです。
債権者(金融機関や貸金業者など)の担当者にとっては、正直なところ
「手間と時間がかかって面倒くさい」
だけの手続であると言えます。
本来なら裁判所へ行くのも気乗りがしませんが、裁判所との今後の関係を考え、とりあえず2~3回(月1回くらいのペースで話し合いが続く)は裁判所へ足を運ぶということになります。
ただ、中には元金は全額、利息・損害金も少しは返済するという申出もあります。
そうした申出の場合は、各債権者の内部で協議の上、調停が成立する(=話がまとまる)こともあります。
債権者が複数の場合は足並みが揃わないこともありますが、全員と話がまとまらないといけませんので、調停が長期化(数ヶ月ほど)する場合があります。
特定調停が成立すると、合意内容が法的効力を持つ!
申立人(=債務者)と債権者(複数の場合は全員)が合意に達すれば、調停成立となります。
そして、裁判官(実際には最後にしか出て来ません)により調停調書が作成されます。
最後の調停期日に、関係者全員が同意の上で調停調書を受領します。
この調書調書は「債務名義」と呼ばれ、裁判の勝訴判決や和解調書と同じく、法的効力を有します。
債務者が調停調書通りの返済を履行しない場合、債権者は調停調書に基づき、銀行預金・給与などの差押や、債務者の所有不動産に対する強制競売の申立などが可能になります。
政府のプレッシャー?最近は裁判所が調停成立に熱心!
ここ3~4年くらいの間に、裁判所(及び調停委員)は調停を成立させることに熱心になっているように思います。
というのも、前政権が推進していた政策の一つが
「中小企業及び経営者の再生(再起)」
で、「経営者保証に関するガイドライン」による債務整理
(会社の借入の連帯保証人となっている企業経営者に対し、保証債務を一部免除し、事業の継続・新たな事業の立ち上げを促す目的)が本格的に始まっていました。
特定調停も、経営者の再起や事業の立て直しに一役買うべきといったプレッシャーがあった模様です。
上記のガイドラインによる債務整理は、必ずしも裁判所を通す必要はありませんが、特定調停の制度を使ってその中で協議をまとめる形が増えていました。
一部の大手法律事務所が、積極的にガイドラインによる債務整理を試みていました。
調停を申立してもどうにもならないような案件は、法律事務所側で事前にはじいていたようで、それなりに可能性のある案件が申立されたようです。
よって、話がまとまった案件もある程度あります。
調停成立しても、合意が全く履行されない場合もある!
しかし、それでも特定調停の制度で全て丸く収まるとは限りません。
以前私が担当していた案件の債務者が、特定調停を申立してきました(上記ガイドラインによるものではありません)。
元金の残額は数年で全額返済するとのことでしたが、損害金を極端に下げて欲しいとの要望でした。
私としては第一回の面談では何も約束せず、職場に持ち帰りました。
その後に職場で協議した結果、裁判所の心証を悪くしないため、その案件は調停案に同意することとなりました。
裁判所で調停調書も受領しました。
ところが相手方は、翌月末からの第一回返済をいきなり不履行したのでした。
相手方の代理人弁護士に連絡すると、後日
「第二回の返済時に二ヶ月分まとめて入金するので、それでご容赦願いたい。」
との依頼がありました。
やむなく内部協議の上で了承しました。
ところが、第二回の返済日に入金された金額は、一ヶ月分の半分の金額でした。
すぐに弁護士に連絡すると、
「業績が芳しくなく、二ヶ月分を工面できなかったらしい・・・。」
とのこと。
その後、その案件は別の担当者が引き継いだので、以降の経過は分かりません。
最後に・・・。
「裁判所が間に入って約束したことすら、なかなか完全には守られないものだ・・・。」
と実感しました。
そういう意味では、特定調停とは実際に返済が始まってみないと安心できない、
「一か八か」
の要素が大きい手続だと言えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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