「即決和解」という法的手続をご存知でしょうか。
正確には「訴え提起前の和解」と言います(民事訴訟法275条)。
紛争当事者同士で合意があり、かつ裁判所がその合意を相当と認めた場合に、和解が成立します。
ここで、
「当事者同士で合意ができているなら、何で双方が裁判所に出向いて、和解をする必要があるのか?」
という疑問を持たれた方、貴方は鋭いです!
即決和解の法的なメリットとは?
即決和解に何のメリットがあるのかと言うと、
即決和解の内容は「和解調書」という文書になり、
この和解調書は、「債務名義」になるからです。
債務名義を取得すると、
(1) 差押などの「強制執行」が可能になります。
当事者同士の合意だけでは、いきなり強制執行には着手できません。先に訴訟を提起して、 勝訴判決を得る必要があります。
(2) 時効が10年に延長されます。
当事者(例えば債権者と債務者)のうち一方(例えば債務者)が合意を履行しない場合、双方が商人(例えば金融機関と事業者)だと、通常は債権債務の消滅時効は5年です。しかし債務名義を取得すれば、消滅時効は10年に延長されます。
費用面でもメリットあり。
また、即決和解は申立にかかる費用が非常に安いです。
申立手数料は、原則1件につき収入印紙2,000円です。
※申立人、相手方が複数の場合、事案により手数料が異なります。
書類の送付手数料は、相手方1名につき郵便切手645円です。
※送付書類の重量により、追納が必要な場合があります。
普通に債務者に対し訴訟を起こすと、申立債権額に応じて申立手数料が増減します。
裁判の手続なしに、債務者に対して安価で債務名義を取得できるならば、債権者にとってはお得な制度です。
どんな場合でも利用できるわけではない!
しかし、どんな場合でもこの即決和解を申立できるわけではありません。
前提として、「当事者同士で合意ができていること」が必要です。
債権者と債務者が事前に交渉した上で、返済条件などに双方が納得して初めて、即決和解のスタートラインに立てます。
更に、債務者が決められた日時に裁判所に来てくれることも必要です。
「お互い話し合って、返済条件にも納得した。そっちの書類にも署名捺印した。何でわざわざ裁判所に出向かないといけない?」
と言われる可能性も高いです。債務者の側からすれば、当然の意見です。
上記の債権者側のメリットを正直に説明したところで、債務者が素直に応じてくれるはずもありません。
そもそも、督促に反応のない債務者や、返済もせずあれこれイチャモンをつけてくる債務者には、即決和解は使えません。
どうやって即決和解に持ち込むか?
債権回収の担当者としては、
「お互いに約束したことを裁判所で書類にしてもらえば、お客様にとっても安心できて、プラスですよ。」
などと説明するのが無難でしょう。
即決和解という言葉は、「裁判」や「訴訟」よりもソフトな感じに聞こえるので、担当者にとっては使いやすい言葉です。
ここで法的知識に詳しい債務者なら、不審に思うでしょう。
しかし、こうした法律には疎い債務者が圧倒的に多く、返済できていない引け目もあることから、回収担当者に言われるがまま、応じる人もいるでしょう。
即決和解に応じる法的義務はない!
これまで書いてきました通り、即決和解はあらゆる場合に使える手段ではありません。金融機関や貸金業者などでも、それほど積極的に利用されてはいません。
返済しない債務者に対しては、裁判所に訴訟を申し立てるのが一番メジャーな方法です。
しかし、債務者の合意が得られれば、楽に安価で債務名義を取得できるので、債権者にとっては都合のいい制度です。
反対に、債務者にとってはメリットはほとんどありません。
確かに債権者の方も、債務者が約束通り返済しているのに、一方的に返済額の増額や一括返済を求めたりと、和解調書の内容を無視することはできなくなります。
しかし、債権者からそうしたことをされる可能性は、ほぼゼロです。
基本的には、債権者が有利になる手助けをしてやるだけです。
即決和解に応じる法的義務はありません。
債権者側が債務名義を取得したければ、裁判に訴えて法廷で返済につき話し合った上で、勝訴するなり和解するなりすればいいだけの話です。
最後に・・・。
もし貴方が債務者の立場で、債権者から
「即決和解にご協力いただけますか?」
と言われたら、
「コイツは押しに弱そうで、あれこれ聞いてこないから、可能性がありそうだ。」
と思われていると考えてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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