「事物管轄」「合意管轄」とはどういう意味?違いは?

「事物管轄」、そして「合意管轄」という言葉をご存知の方は、金融関係のお仕事をなさってる方が多いと思います。

あるいは、ビジネスの場で契約書を締結することの多い方もいらっしゃるでしょう。

しかし、一般の方々も、実は様々な場面で目にしている(はず)の用語です。

 

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事物管轄とは?

事物管轄とは、第一審の訴訟手続を、同じ管轄区域内の簡易裁判所と地方裁判所で、どちらに担当させるかについての定めです。

(原則)
訴訟の目的の価額(訴額)が140万円を超えない → 簡易裁判所

訴訟の目的の価額(訴額)が140万円以上    → 地方裁判所

(注)不動産に関する訴訟の場合、訴額が140万円未満でも、両方の裁判所が管轄権を有する(裁判所法第24条1号、第33条1項1号)

訴額とは、被告に対して○○万円を支払えと請求する場合の、○○万円のことです。訴額は、元金の額であり、元金に付随して請求する利息や遅延損害金は含みません。

この訴額が140万円未満なら、訴訟申立は簡易裁判所に行います。

140万円以上(140万円ちょうどを含む)なら、訴訟申立は地方裁判所に行います。

 

合意管轄とは?

合意管轄とは、当事者間の合意によって、法定の管轄と異なる管轄裁判所が定められることです(民事訴訟法第11条)。但し、第一審に限ります。

つまり、簡易裁判所か地方裁判所に限られます。高等裁判所にする旨の合意は、無効になります。

また、合意管轄は、書面で行われなければ無効です。

なお、合意管轄の取り決めがなされない場合、原則として、

被告の本拠地を管轄する裁判所で裁判を行います(民事訴訟法第4条)。

 

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合意管轄は、事物管轄についても合意可能!

合意管轄は、すぐ上で説明した土地管轄(どこの裁判所で裁判を行うか)だけではなく、

事物管轄(簡易裁判所か地方裁判所のどちらで裁判を行うか)についても合意できます。

(参照)最高裁平成20年7月18日決定

条項例:「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争は、○○地方(または簡易)裁判所を専属的管轄裁判所とする。」

※「専属的」の文言がないと、付加的合意(当事者が合意した裁判所と、法定の管轄裁判所との併存を認めるもの)になってしまいます。

 

合意管轄で140万円の壁も越えられる!

「本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争は、○○簡易裁判所を専属的管轄裁判所とする。」という条項がある場合、

例えば1,000万円を訴額とする訴訟を、○○簡易裁判所で行えるでしょうか?

本来、訴額140万円以上の場合、事物管轄により、地方裁判所が管轄するはずです。

結論としては、簡易裁判所で行えます。

最高裁平成20年7月18日決定は、民事訴訟法第16条を理由に、地方裁判所に広く裁量を認めました。

(民事訴訟法第16条)簡易裁判所の専属管轄である場合(合意管轄を除く)でなければ、地方裁判所は、自ら裁判を行える。

最高裁決定は、簡易裁判所にも合意管轄があることを前提としています。

よって、訴額が140万円以上でも、簡易裁判所に管轄があります。

契約書の条項に『訴訟の目的の価額にかかわらず』といった文言が書かれていれば、訴額140万円以上の訴訟も、簡易裁判所で行えます。

 

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裁判所の実務はどうなっているか?

しかし、訴額がいくら高額でも、合意管轄の条項さえあれば簡易裁判所で裁判が行われる、というわけではありません。

本来、簡易裁判所は、少額の訴訟を審理するための裁判所です。

各地の裁判所により基準の違いはあるでしょうが、一定の金額を超えると、簡易裁判所は申立の受付はするものの、地方裁判所に事件を移送します。

例えば大阪簡易裁判所では、以前は訴額2,000万円超くらいだと、大阪地方裁判所に事件を移送移送していました。

裏返せば、訴額1,000万円台なら、普通に大阪簡易裁判所で扱っていました。

最近はさらに金額が上がり、訴額4,000万円くらいまでなら大阪地方裁判所へ移送せず、大阪簡易裁判所の事件として審理しています。

簡易裁判所の事件だと、原告側の訴訟代理人は必ずしも弁護士でなくてよく、法人が原告の場合、社員などが代理人として出廷できます(形式上、裁判所の許可を受けます)。

訴訟を申し立てる債権者にとっては、弁護士費用を節約できるメリットがあります。

 

合意管轄があると、被告は遠方の裁判所に行かなければならない!

合意管轄条項では、まず100%、債権者の本店所在地管轄の地方裁判所や簡易裁判所が、専属的管轄裁判所とされています。

よって、例えば原告が合意管轄に基づき、東京地方裁判所に訴訟を申し立てると、被告がその時点で北海道に転居し、住民票を移していたとしても、被告は東京地方裁判所に出頭しなければなりません。

「東京なんて遠くて行けないから、札幌の裁判所でやってくれよ!」

というような文句を言っても、どうしようもありません。

 

最後に・・・。

ここまで色々書いてきましたが、いかがだったでしょうか。

小難しい言葉がたくさん出てきて、分かりにくかったかもしれません(私の文章力の低さも大きな原因です・・・)。

しかし、「事物管轄」や「合意管轄」は、住宅ローンや自動車ローンの契約書、クレジットカードの約款など、様々な契約書類に顔を出します。

我々は、なかなかそうした書類の細かい部分まで読みませんが、そういう部分に今まで書いてきたような、結構重要なことが書かれています。

もしトラブルになった場合、

「そんなこと知らなかった・・・。」

とならないよう、お気をつけください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

こちらも興味がありましたら、是非お読みください。

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