「福澤諭吉」
の名前は、100%に近い方がご存知でしょう。
名門私立大学
「慶應義塾大学」
の創設者です。
そして、現1万円札の顔となっています。
私は慶大卒ではなく、慶應義塾と何の関わりもありません。
2024年に新紙幣が発行されるまでに、出来るだけ多くの
「福澤諭吉プロマイド(日本銀行発行)」
を集めたいという気持ちは強いのですが・・・。
福澤諭吉の著作は、『学問のすゝめ』だけに非ず!
福澤諭吉と言えば、多数の著作を遺したことでも知られています。
最も有名な著作は
「学問のすゝめ」
でしょう。
福澤の代名詞とも言えるこの本に比べると、今回ご紹介する
「西洋事情」
は、一般的にはマイナーです。
しかし、福澤の三度にわたる海外渡航
1860年:アメリカ
1862年:ヨーロッパ諸国
1867年:アメリカ
の経験や、そこから得た知識などが詰め込まれています。
海賊版まで出た!現代なら『宇宙飛行士』のよう?
「西洋事情」は、初編・外編・二編から成っています。
初編は1866年(慶応二年)
外編は1868年(慶応四年)
二編は1870年(明治三年)
に出版されています。
売れ行きは良かったらしく、関西では海賊版まで出回ったそうです。
幕末〜明治初期において、福澤のように三回も外国へ行った人間というのは、現代で言えば
「宇宙飛行士」
のような存在ではなかったでしょうか。
そういう意味では、本が売れたのも納得がいきます。
『初編』では、西洋社会の概要を解説!
「初編」では、外国(ヨーロッパやアメリカ)の政治体制、財政・金融や法人の仕組み、外交や軍事、学校教育、医療や社会福祉、科学技術などの概要が解説されています。
幕末〜明治維新直後の日本では、例えば
「選挙」
「法人」
などの概念はないに等しかったので、読者にも目新しかったでしょう。
また、アメリカの建国から南北戦争直前までの歴史も、簡潔にまとめられています。
『外編』では、民主主義や自由主義などを語る!
続く「外編」では、初めの方では
「人間とは」
「家族とは」
「人生とは」
のような、西洋とは特に関係のない主題が語られています。
しかし途中からは、
「世の文明開化」
「貴賤貧富の別」
「世人相励み相競う事」
など、民主主義や自由主義、資本主義などの主題が前面に出て来ます。
そして、
「政府」
「法律」
「教育」
「経済」
「資本」
「私権」
といった題材に関する西洋の実情、そしてそれに基づく福澤自らの意見が述べられていきます。
福澤は、位は低くとも徳川幕府の幕臣でした。
しかし、この辺りの文章からは、福澤の幕府体制に対する嫌悪感のようなものを感じました。
『二編』では人権や税金、ロシア史とフランス史を語る!
最後の「二編」では、最初に
「人間の通義」
という題で、基本的人権や人民の政府に対する権利などが語られています。
次に
「収税論」
として、各種税金の説明や、それらの有益な使い道などが語られます。
その後は、「魯西亜」(ロシア)や「仏蘭西」(フランス)などの史記(歴史)が綴られています。
ロシア史は、ロマノフ朝初期〜末期(1850年代)までです。
フランス史は、フランス革命直前からナポレオンの時代、そしてナポレオン三世時代の途中までです。
文語調に最初は苦労するが、次第に慣れてくる!
私が読んだのは、慶應義塾大学出版会から刊行された本です。
脚注はふんだんに使われていますが、文体は文語調です。
幕末〜明治初期に書かれた本なので、当たり前ですが・・・。
我々現代人は、最初のうちは読むのにかなり苦労します。
しかし、読み進むうちに段々慣れてきます。
内容に関しては、21世紀の人が読んでも十分面白いと思います。
慶大の現役学生や卒業生なら、必ず読んでおくべきでしょう。
慶應に無縁の人も、読んで全く損はありません。
ヨーロッパには約一年滞在。記述はかなり多い!
全体的には、ヨーロッパに関する記述がかなり多くなっています。
福澤はアメリカに二回行きましたが、政治経済などの仕組みはヨーロッパの国々とさほど変わりません。
また、福澤が訪米した時点では、まだ建国100年未満でした。
そのためアメリカについては、とりたてて書くことがなかったのではないでしょうか。
一方ヨーロッパに関しては、1862年(文久二年)に
遣欧使節団
の随員の一人として訪れました。
そして一年近くかけて、数ヵ国を視察して回りました。
様々な物や事柄を見聞きし、福澤の知的好奇心は大いに満たされたことでしょう。
『手帳』を最初に使った日本人は福澤諭吉?
ちなみに、
「日本人で最初に手帳を使ったのは、福澤諭吉ではないか。」
と言われています。
昔の日本では、丸めた和紙が筒に入っており、筆や墨汁も一緒に持ち運べる
「矢立」(やたて)
というものがあったそうです。
しかし、外国をあちこち回っている中で、何か書き留めたいと思っても
「和紙を広げて筆で文字を書く」
作業は大変困難です。
何かの本で読んだのですが、福澤はヨーロッパで最初に訪れたフランスで、手帳を買ったそうです。
そして、見聞きした事柄や感想などを、手帳に(おそらくペンで)書きつけていったとのことです。
そうして書き溜めた膨大な情報・知識が、「西洋事情」執筆の際に大いに役立ったようです。
最後に・・・。
私がなぜ「西洋事情」を読もうと思ったのかについては、次のような理由があります。
京都市に
「霊山(りょうぜん)歴史館」
という、幕末専門の博物館があります。
10年ほど前にそこを訪れた際、展示品の中に「西洋事情」を見つけました。
ちょうど上記の「手帳」の話を読んだ後だったこともあり、興味が湧きました。
大型書店に行くとすぐに見つかったので、買って読んだ次第です。
残念ながら、福澤諭吉の本を読んでも、一万円札が私の手元にジャンジャン舞い込んでくることは、今まで全くありませんでした・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。