不動産を売ったり買ったりする場合、現代でもさすがにネット取引で済ませるわけにはいきません。
売主と買主が同じ所に集まり、顔を合わせるのが取引の原則です。
まとまった金額が動くので、大抵はどこかの金融機関の支店で取引が行われます。
そして売主・買主だけでなく、不動産仲介業者や登記手続を行う司法書士も、取引に立ち会います。
抵当権や仮差押などの登記がある債権者も、取引に立ち会う!
さらに、売買される不動産に抵当権などの担保権や、仮差押などの登記が付いている場合、そうした権利を持つ債権者もその場に立ち会います。
売買代金の中から、債権者へも一部(場合によっては全額)返済がなされるので、代わりに登記を外すことになります。
そのため、登記に必要な書類を持参するのです。
取引の立ち会い人数が多いと、多少気が楽だが・・・。
担保権などのある債権者が複数いる場合は、取引に使われる応接室や会議室に大勢の人が集まることになります。
そういう時は、債権者としては少し気が楽です。
今までのブログ記事でも書いてきましたが、債務者や連帯保証人などに担保不動産を売却させるには、大変な困難が伴います。
債務者たちが何とか自分の不動産を守ろうと抵抗するのを、何とか説得してようやく「任意売却」にこぎ着ける事例が多数です。
取引場所に、売主である債務者や連帯保証人などが来るのは当然ですが、買主と違って晴れやかな気分ではありません。
所有不動産を失う上に、売却代金はほぼ全て借金返済に消えてしまいます。
債権者に対して、良い感情を持っているはずがありません。
他の債権者が何人か来ていれば、そうした売主の怒り・恨みの気持ちを、自分一人で受け止めなくて済むというのが本音です。
債権者が自分一人の場合、非常に気まずい!
しかし、取引に立ち会う債権者側の人間が自分一人、という事例も結構あります。
他に担保権者などがいなければ、ある意味当然です。
売主が破産していれば、破産管財人の弁護士が代わりに来ますが、そうでなければ本人と対面することになります。
前述のように仲介業者や司法書士、そして買主も同席していますので、その場で怒鳴り付けられたり恨み節を聞かされることはありません。
しかし、
「アンタのせいで家(あるいは工場、店舗など)を売らされる羽目になったんだ!」
という無言の圧力が感じられ、正直なところ早く終わって欲しいと、心の中では思っています。
不動産取引には、結構時間がかかる!
ところが不動産取引となると、司法書士による登記書類の確認、仲介業者による売主・買主への説明などに時間がかかります。
そして、金融機関において買主→売主の代金決済が行われ、続いて売主→債権者の振込手続が行われます。
回収担当者がその場で現金を受け取って持ち帰ることは、金融機関での取引ではまずありません。
場合によっては数千万円(あるいはそれ以上)の回収になるので、取引場所の金融機関で、自分の勤務先の回収金専用口座に振り込んでもらうのです。
月末、年末、年度末などには金融機関の業務が多忙を極めるため、入金手続が終わるまでに1時間以上要することもあります。
その間、売主・買主たちと一緒に待っていることになります。
その際の気まずさは、言葉では上手く表現できません。
回収担当者としては何一つ悪いことはしていませんが、何とも言えない後ろめたさを感じてしまいます。
仲介業者や司法書士が気を効かせて雑談をしてくれ、雰囲気を和らげようとしてくれることもあります。
しかし、それでもあの独特の雰囲気は、簡単には変わりません。
3対1の完全アウェイを経験!
私自身は過去に一度だけ、相手方三人に対して債権者は私一人のみ、中立の立場の司法書士が一人という
「完全アウェイ」
状態を経験したことがあります。
「買主がいるはずだろう?それに、仲介業者も立ち会うんじゃないの?」
という疑問をお持ちの方も、当然いらっしゃるでしょう。
説明しますと、実は買主が売主、すなわち債務者の子供だったのです。
父である債務者が自宅を担保に入れていましたが、返済が滞り改善の見込みもないため、こちらは自宅の任意売却を求めて交渉していました。
そんな中、成人して独立している子供が、購入を申し出てきました。
売却代金の額が妥当で、こちらも納得できるなら、買主が親族であっても問題はありません。
売買代金額について合意し、買受を希望する子供の方も、金融機関からの融資が受けられることになりました。
取引場所のブースで、債務者家族と向かい合い・・・。
そして、融資が行われる金融機関で取引が行われました。
身内同士の売買なので仲介業者はおらず、登記の依頼を受けた近所の司法書士がやって来ました。
この司法書士は任意売却への立ち会い経験が豊富で、売買契約書の作成や取引の段取りを色々アドバイスしてくれたそうです。
取引には、売主である父親と妻である母親、そして買主である子供の三人がやって来ました。
司法書士は私が持参した登記書類を確認し終わると、買主をフォローして金融機関の人と打ち合わせをしたり、色々動いてくれました。
その間、私と相手方の三人が向かい合って待っている時間が、結構長かったです。
幸いにと言うべきか、取引場所は密室となる応接室や会議室ではなく、支店のフロアの端にある、パーティションで区切られたやや広めの相談ブースでした。
おかげで、相手方と向かい合っていても息苦しさはやや軽くなりました。
しかし当然のことながら、お互い話が弾むことなど全くなく、今後残った債務の返済につき、多少話し合った程度でした。
相手方からすれば、他人に売ったり競売にかけられたりで、自宅を追い出される事態を回避できたので、安心したようでした。
最後に・・・。
「完全アウェイ」の取引は、一時間ちょっとで無事に終わりました。
ただ、いつもの取引よりもかなり気疲れしてしまいました。
日本人は「家」というものへのこだわりが非常に強いと言われますが、任意売却の取引に立ち会うたびにそのことを考えます・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。