債権回収の仕事をしていると、不動産が担保として差し出されている
「有担保債権」
を担当することもあります。
そうした案件の場合、債務者や連帯保証人などとの交渉は
「返済交渉」
というより
「担保不動産の売却交渉」
と表現する方が正確です。
不動産競売で担保が売れたら、代金が配当として分配される!
担保不動産の所有者が任意売却に応じなければ、裁判所を介した
「不動産競売」
手続によって、第三者に売却することになります。
このブログでも、競売関連の記事が複数あります。
競売にかけられた不動産が買受希望者に落札され、買受代金が所定の期日までに納付されたら、所有権登記が買受人名義に変更されます。
そして、買受代金は登記の順位など法定の順番に従い、債権者に配当として分配されます。
競売配当の受領は二通り。一つ目は定番の・・・。
競売配当をどうやって受領するかについては、法律関係者や金融関係者以外の人にはなじみがないはずです。
21世紀の日本にあって、裁判所で現金を受け取ることはありません。
数万円程度ならともかく、物件によっては数千万円~数億円ということもあり得ます。
現在は、次の二つの方法のどちらかで受領します。
一つ目は
「銀行振込」
です。
事前に裁判所に書面で、競売配当を振り込んで欲しい金融機関口座を伝えておきます。
すると、裁判所の方で振込手続をしてくれるのです。
但し、配当日の当日にすぐ入金確認できるわけではありません。
数日以内には振込された旨が分かります。
しかし、債権者にとっては楽でありがたい方法です。
もう一つは、保証小切手での受領!
もう一つの方法は、配当日に裁判所へ出向き、
「保証小切手」
として受領するというものです。
詳細は省略しますが、裁判所が振り出した小切手を受け取るのです。
配当日に裁判所へ行き、保証小切手を受領して事務所に戻ったら、小切手を経理部門に回し、入金処理を行います。
裁判所へ行けば、配当表(各債権者にいくら配分されたかが記載されている)を直接受け取れます(後日郵送されてくるのですが)。
便利な銀行振込だけでなく、保証小切手を取りに行くこともある!
これだけ聞くと、最初の銀行振込の方が断然楽だと思われるでしょう。
まさしくその通りです。
しかし、多くの金融機関や貸金業者、債権回収業者などは、両方の方法を併用しています。
なぜでしょうか?
各債権者とも、年間・半期・四半期・月間の回収目標というものがあります。
管理職や回収担当者たちは、毎月
「今月は目標額を達成できるかな・・・。」
と、数字に一喜一憂します。
特に月末、年末、年度末は、一日でも早く回収目標を達成しようと必死です。
ところが銀行振込だと、たとえ競売配当がその月の下旬~末だったとしても、振込されているのを確認して内部の入金処理を行うのは、翌月になることが多いのです。
その月中に入金処理できるかどうかで、その月の回収目標に達するかどうかの分かれ目になります。
そのため、毎月20日以降に競売配当が行われる場合は、回収担当者が裁判所へ出向いて保証小切手を受領し、事務所へ戻るとすぐに入金処理をする所が大多数だと思います。
私が有担保債権専門の部署にいた頃も同じでした。
日によっては、担当者の半数ほどが朝から裁判所に出かけることもありました。
不動産を売られた元の所有者は、裁判所へは来ないはずだが・・・。
競売配当の当日、保証小切手を取りに裁判所へ行くのは、配当にあずかれる債権者だけです。
持っていた不動産を売却されてしまった元の所有者は、自分には1円も入って来ないケースがほとんどです。
行けば、配当表を直接受領できます。
とは言え、配当表になど何の興味もなく、取りに来ない人が圧倒的多数です。
しかし、私はたった一度だけ、競売配当の保証小切手をもらいに行った裁判所で、元の物件所有者と出くわしたことがあります。
保証小切手の発行を待っていると、男性から声をかけられ・・・。
10年以上前のある月の下旬でした。
私は電車を乗り継ぎ、ある裁判所へ向かいました。
そして、競売担当の部署で保証小切手を発行してもらう手続をしました。
カウンターの近くで待っていると、ある男性から
「こんにちは。」
と声をかけられました。
振り向くと、そこにはある案件の債務者が立っていました。
その男性こそが、その日配当をもらう競売事件の、元の物件所有者だったのです・・・。
トラブルになるのではと心配したが・・・。
私は
「物件を売られた恨み言でも聞かされるのか?」
と一瞬身構えましたが、実はその男性は配当表を取りに来ただけだったのです。
ある意味律儀な人でした。
その男性は配当表を受け取ると、そのまま帰って行きました。
トラブルに発展することもなく、私は胸を撫で下ろしました。
最後に・・・。
それ以来、競売配当の日に裁判所で元の所有者と会うことは、一度もありませんでした。
しかし、色々揉めて競売に至った案件の配当の日は、
「もしかして文句を言いに来るんじゃ・・・。」
と不安を抱くことがしばらく続きました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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