貴方は誰かに
「死刑宣告」
を下したことがありますか?
そう尋ねられて
「はい、あります。」
と答えられる人は、おそらく裁判官(あるいは元・裁判官)だけでしょう。
その裁判官にしても、死刑判決を下すような刑事事件を担当することは、キャリアの中でそうはないでしょう。
他にも『死刑宣告』を下す職業が!
実は裁判官以外にも、他人に対して
「事実上の死刑宣告」
を下す職業があります。
金融機関や貸金業者が該当します。
もちろん裁判官と違い、裁判所の法廷で被告人に言い渡すわけではありません。
債務を返済できなくなった債務者などに対し、担保に取っている不動産を競売にかける旨を伝えることです。
それも、債務者の自宅や別荘などではなく、
事業を営んでいる店舗や工場
を競売にかける場合です。
本拠地を失うと、商売の継続が不可能に!
債務者などにとっては、自宅を競売で売却されることも、辛いことではあります。
ただ、持ち家を失っても別の家を借りれば、生活そのものは続けられます。
そこから、再起を果たすために頑張ることもできます。
一方、商売の本拠地である店舗や工場は、話が違ってきます。
お金を生み出す源泉
としての役割を持っている不動産です。
これを売却されてしまうと、商売の継続が不可能になる事例がほとんどです。
債権者の側も、悠長に待ってはいられない・・・。
しかし債権者の側としても、売却せざるを得ない事情があります。
約束通りの返済ができなくなったのは、事業の調子が芳しくないからです。
それが一時的なもので済めばいいのですが、中小・零細企業には、それに耐えられる体力のない会社が多いです。
金融機関や貸金業者としては、しばらく様子を見てやろうという、悠長な姿勢は取りづらいのです。
担保不動産の処分により、債権をできるだけ多く回収しようという発想になってしまいます。
『任意売却』の話も、簡単には受け入れられず・・・。
どこの債権者も、いきなり競売申立とはならないはずです。
大抵はまず、
「任意売却」
の話を切り出すでしょう。
債務者たち自ら、又は不動産業者の力で不動産の買い手を探し、少なくとも相場程度の価格で買ってもらうという話です。
しかし債務者側からすれば、任意売却ですら、すんなりと受け入れてはくれません。
多少自分たちの要望が通りやすいとはいえ、商売の基盤を手放すことに変わりはありません。
当然ではありますが、激しく抵抗して来ます。
債務者側も必死!あの手この手で・・・。
全く融資に無関係の親戚など、一族郎党を引き連れて談判に来る人
地方議員や政治団体の助けを借りようとする人
2時間以上面談ブースに居座り続ける人
・・・など、様々なパターンで反撃して来ます。
人間、切羽詰まった時には何でもするものです。
そうなると、債権者としては任意売却を諦め、競売申立に踏み切ることになります。
競売申立を通告する際の気持ちがまさしく・・・。
ほとんどの金融機関・貸金業者は、債務者たちに口頭または文書で、競売申立を行う旨の通告をするはずです。
この際の債権回収担当者の気持ちは、まさしく初めに言及した
「事実上の死刑宣告」
を下す感じです。
商売の本拠地を売却されることは、生活の糧を得る手段を奪われるのと同じです。
「死刑宣告」という表現は、決して大げさではありません。
紋切り型の返答を繰り返すしか・・・。
そこで諦めて納得する債務者たちは、私の過去の経験から言えば20%くらいでしょうか。
残りの約80%は、
「うちを潰そうとする気か!」
「我々に死ねと言ってるのか!」
などと、痛い所を突いて来ます。
ただでさえ業況が悪いのに、店舗や工場を競売にかけられては、商売は終わりへとまっしぐらになります。
上記のような言葉を投げかけられても、やむを得ません。
そう言われると、こちらも返事に困ってしまいます。
ただ、担当者の立場としては
「全体としての結論です。」
「総合的に判断した結果です。」
などと、紋切り型の答えを繰り返すしかありません。
最後に・・・。
以前にもこのブログで書きましたが、コロナ禍も3年目を迎え、金融機関なども返済猶予・競売申立保留などが続けられなくなるはずです。
マスコミではまだ大きくは報じられていませんが、日本各地の裁判所では、不動産競売事件の件数が増加し始めているのではないでしょうか。
そして、多くの債権回収担当者が、
「事実上の死刑宣告」
を下すことを迫られているかも・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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