最近、インターネット上の雑誌記事などで、
「住宅ローンの繰り上げ返済を頑張っても、現在の低金利ではあまり効果はない。それよりは、生活を楽しむために使った方がいい。」
「せっせと貯金して繰り上げ返済していると、『繰り上げ返済貧乏』になってしまう。貯めたお金を投資に回す方が、効率的で賢い方法だ。」
といった内容の文章をちらほら目にします。
繰り上げ返済は効果が薄いのか?
皆様もご存知のとおり、住宅ローン契約に基づく毎月の返済の他に、まとまった金額を不定期に返済し、当初の予定よりも早くローンを完済することが、繰り上げ返済です。
定年退職時に、退職金でローンの残額を返済する人も多く、一種の繰り上げ返済と言えます。
住宅ローンの繰り上げ返済を頑張るのは、現代では「効果の薄い」ことなのでしょうか?
レジャーや投資など別のことにお金を使う方が「賢い」ことなのでしょうか?
金融機関の意識の変化
我々の親の世代は、もちろん繰り上げ返済は可能でしたが、手続が面倒で、金融機関もあまりいい顔をしなかったそうです。
金融機関の側にメリットがなかったからです。
しかし最近は、ネット手続などの環境が整備され、手続がしやすくなりました。
金融機関も、バブル崩壊後の平成不況で住宅ローン破綻の波をモロにかぶり、考え方が変わりました。
住宅ローンの利用客が、繰り上げ返済で早期にローンを完済するようになれば、不良債権化するリスクを減らせ、自分たちにもメリットがあると考えたのです。
金融機関・不動産業界・建設業界・国の連携プレー
しかし一方で、住宅ローン融資は事業者向け融資より完済率が高く、旨味もあるため、なるべく多くの客に住宅ローンを利用させたいと考えました。
そこで、不動産業界や建設業界、国とスクラムを組み、
「頭金ゼロでも融資可能」
「ボーナス払い不要」
「35年の超長期ローン」
など、住宅ローン借入のハードルを低くしていきました。
さらに、公的機関を絡めた「ゆとり返済」、「フラット35」などの優遇措置を打ち出しました。
そうした作戦は成功し、我々の親の世代なら住宅ローンを組めなかったはずの人たちが、「夢のマイホーム」を手に入れました。
アメリカの先例に学ぶことなく・・・。
こうした現象は、アメリカでも起こりました。
様々な条件緩和措置により、「サブプライム層」と呼ばれる低所得者層の人々が、ローンで住宅を購入出来るようになりました。
しかしそれが過熱すると、金融機関の主導で不正なローン申請(所得証明の偽造・改ざん、顧客情報の虚偽申告など)やいい加減な審査が横行するようになりました。
そもそも、住宅ローンの返済に疑問符が付く人々だったため、最終的には住宅ローン破綻の件数が激増しました。
2000年代後半に社会問題化した、「サブプライムローン問題」です。
この問題が発火点となり、「リーマンショック」と呼ばれる金融危機が起こったのは、皆様もご存知でしょう。
日本では、アメリカのようなブームや、夥しい数の不正利用などは起こらなかったものの、無理して住宅ローンを組んだ人たちが返済に行き詰まり、破綻する事例は多かったのです。
しかし、そうした状況はいつの間にか報道されなくなり、忘れ去られました。
そして、「頭金不要、ボーナス払い不要、低金利の35年ローン」という仕組みは、現在に至るまで残っています。
住宅ローン=借金です!
それにしても、35年ローンというのは、気が遠くなるような長期間です。
この間に、自分の生活にも、社会情勢にも何の問題も発生せず、毎月決まった金額を返済し続けることができるか、心配にならないでしょうか。
昔の高度成長時代と違い、21世紀は低成長の時代です。
しかも、終身雇用や正社員という概念が揺らいでいる日本社会で、
「自分は大丈夫。何とかなる。」
と自信を持っていられるでしょうか。
住宅ローンは、まぎれもない債務=借金です。
ローン返済中の人は、完済するまで「債務者」であり続けるのです。
繰り上げ返済は、人生のリスクヘッジです!
余裕資金ができたら繰り上げ返済するという考え方は、至極真っ当です。
少しでも早く債務を減らしていくことで、人生のリスクも少しずつ減らしていけます。
新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の人命を奪い、経済活動にも大打撃をもたらしました。
我々の人生は、こうした突発的なリスクに晒されていることを思い知らされました。
社会環境の変動(災害、疫病、不況など)に対するリスクヘッジとしても、繰り上げ返済は有効だと思います。
繰り上げ返済は、下手な投資よりも高リターンです。
また、投資という面でも、繰り上げ返済はある意味有利な投資です。
資金を運用して収益を得るだけが投資ではありません。
債務を早く返済し、支払利息を少しでも減らすことは、収益を得るのと事実上同じです。
多数の著書がある、経済評論家の山崎元さんは、ある書籍で次のような趣旨のことをおっしゃっていました。
「世の中の全ての金融商品の中で、住宅ローンの繰り上げ返済よりもリターン(収益)の高い商品は、今のところ見当たりません。」
もちろん、色々勉強しながら投資(株式、債券、FX、不動産など)をするのは、いいことだと思います。
しかし、住宅ローン債務を抱えている段階では、それほど多額の資金も投入できません。
少ない資金をフル回転させる投資スタイルは、成功の確率が低いというのは、よく知られている常識です。
ローンを完済するまでは、投資はつみたてNISAや純金積立くらいにしておく方が、安全です。
最後に・・・
これまであれこれ書いてきましたが、結論は簡単です。
住宅ローン債務を背負っている人は、できる限り貯金し、まとまった金額になったらせっせと繰り上げ返済すべきです。
有名な童話「アリとキリギリス」の結末は、誰でも知っているはずです・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 