今でもまだ、テレビやラジオのCMで
「過払い金の有無を簡単にチェックできます!」
といった弁護士・司法書士事務所のCMをよく見聞きします。
また、同様に多いのが
「債務整理して、人生の再スタートを!」
のような広告です。
こちらはテレビ・ラジオよりもインターネット上で無数に見つかります。
やはり「借金がなくなるかも!」という内容はインパクトが強いのでしょうか。
どのサイトも「お気軽にお問い合わせください!」という雰囲気を前面に出しています。
しかし、「債務整理」=「借金の全部又は一部の減免」はそう簡単にできるものなのでしょうか?
債権回収の仕事に携わっていた人間としては、
「そんなに甘いものじゃないですよ。」
と言いたくなります。
債務整理には、法的整理と任意整理の二種類がある!
まず、債務整理には大きく分けて二種類あり、「法的整理」と「任意整理」に分かれます。
法的整理は、破産や民事再生、個人再生など、裁判所による手続を通して債務の全部又は一部減免を行う仕組みです。
一方、任意整理は裁判所を通さず、債務者が債権者(複数の場合も多い)と交渉し、債務額の圧縮を図る方法です。
法的整理でも、選択する方法により大きな違いがある!
法的整理でも、破産の場合は最終的に債務の返済責任が免除されるので、全部免除となります。
その代わり、自宅などの所有不動産や預金などの財産は、全て失うことになります。
民事再生や個人再生などの場合、一定割合は返済する必要がありますが、残りは免除され、不動産を手放さずに済むことも可能です。
しかし、破産と異なり色々条件が課せられるので、民事・個人再生などの手続を利用できないケースもあります。
実際、初めは裁判所に民事・個人再生を申立していたが、条件をクリアできずに不認可となり、最後は破産申立に切り替わる案件が結構見受けられます。
任意整理は、かなりハードルが高い!
任意整理の場合は、さらに難しくなります。
債権者としては、法的整理ならばやむなしという立場であり、裁判所が認めればそれに従うことになります。
しかし、裁判所が絡んでいない案件だと
「何で債権額を減らしてやらないといけないの?」
ということになります。
また、任意整理の申出はとかく「債務者に甘く、債権者に厳しい」、都合の良い内容になりがちです。
債権者、特に担当者レベルでは「話にならない。上司に相談のしようがない。」ようなことが多いです。
そもそも、債権者側には「債権の減免」はメリットが見当たりません。
複数の債権者から同意を得るのは至難の業!
債務者の代理人として、弁護士が交渉の前面に出てくるケースはかなり多いです。
債権者を何とかして具体的な交渉のテーブルに着かせるのが、弁護士の腕の見せ所です。
ただ、債権者が何社(者)もある場合、全ての債権者から同じ条件(減額割合など)での合意を得るのは、至難の業と言っていいでしょう。
中小のいわゆる街金だと、
「ゴチャゴチャ言われるくらいだったら、裁判して給与差押やりますよ。」
などと言いかねません。
また、政府系の金融機関(国金、保証協会など)は元金の減額は原則的に応じておらず、私的整理にはほぼ応じていません。
銀行や信用金庫などの一般金融機関も、一債務者への債権減免となると、本店への稟議というような大きな話になるので、担当者も乗り気でないことが多いです。
国の肝いりの『経営者保証ガイドライン』も今のところ・・・。
最近は、国が音頭を取って普及を進めようとしている
「経営者保証ガイドライン」
による債務整理が、少しずつ増えてきています。
中小企業の経営者は会社の連帯保証人になるのが普通で、保証債務負担に苦しんでいる人が多いのですが、保証債務を減免し、再起を促すのがガイドラインの趣旨です。
しかし、まだまだ国の思惑通りには普及していません。
裁判所での調停は、強制力がないのでまとまりにくい!
まして、一般の個人となると、金融機関が「借金棒引き」の申出にまともに応対してくれる方が、むしろ幸運です。
同じ裁判所を通すにしても、法的整理ではなく調停を申し立てて、債権者と交渉する手はあります。
しかし、強制力はないので、1~2回の交渉で調停不成立という事例が多数です。
やはり破産などの法的整理といった、強制力のある方法でないと、話をまとめるのは困難です。
前述したように、法的整理だと全ての財産を処分・換価されたり、一定の割合(20%ほど)を一定期間内に返済しなければなりません。
最後に・・・。
弁護士や司法書士、NPOなどで、債務に苦しむ人たちを救済しようと尽力してくれる人や団体も多いのですが、もちろんできる事には限界があります。
そうした人たちは、「借金だけなくなるようにしてあげます。」などとは決して言わないはずです。
何も失わず借金だけ消えるようにしてくれる所などありません。
債務整理をしようとするなら、失うものもある程度あることを覚悟する必要があります。
世の中には、膨らんだ債務から目を背け放置しようとする人間も多いです。
その点、債務整理をきちんとやろうとする姿勢は立派です。
しかし、実際に着手すると、かなりしんどく厳しい道のりとなります・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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