裁判所の手続を通して債務の整理を行う「法的整理」のうち、破産に次いで申立の数が多いのが
「個人再生」
です。
「再生」と名の付く手続には他に「民事再生」がありますが、こちらはある程度債務額の大きい法人や個人(法人代表者など)が利用するケースが多いです。
個人再生には二種類ある!
個人再生は名称の通り個人債務者が対象であり、
① 小規模個人再生
将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ再生債権(債務から税金を除いたもの)の総額が5,000万円を超えない個人である債務者が行う。
② 給与所得者等再生
小規模個人再生を申し立てることができる者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みが大きく、かつその変動の幅が小さいと見込まれる者が行う。
の二種類があります。
①も②も、平たく言えば裁判所に再生計画を提出し、それが認可されれば債務額が70~80%ほどカットされ、残債務を3~5年で返済するという手続です。
申立件数は①小規模個人再生の方が圧倒的に多いです。
大雑把なイメージとしては、個人事業主(商売人)が①を申立し、サラリーマンやOL(月給取り)が②を申立するという感じでしょうか(必ずしもそうではありませんが・・・)。
私が債権回収の仕事をしていた頃も、大多数は①でした。
連帯保証人が勤め人の場合、②を申立する人も時々いたという程度です。
なぜ借金全額が免除される破産ではなく、個人再生を選ぶのか?
人によっては、
「破産申立が認められれば、借金は全額帳消しになるのに、何でわざわざ個人再生を申し立てて、たとえ20~30%でも返済する方を選ぶのか?」
という疑問が浮かぶでしょう。
当然の疑問です。
破産すれば、確かに債務(=借金)は免責決定の後で全額免除されます。
その代わり、持っている資産も全て取り上げられ、処分されてしまいます。
自宅を所有している場合、当然家も売却されます。
しかし、個人再生には
「住宅資金貸付債権に関する特則」(民事再生法10章)
の適用があります。
簡単に言えば、自宅購入の際の住宅ローンが残っていても、金融機関から競売にかけられなくて済むのです。
破産した場合は、即座に競売申立をされるので、この違いは大きいです。
但し、住宅ローン債務まで大幅に減額されるという甘い話ではありません。
住宅ローン債務については、返済期間の延長(リスケジューリング)は認められますが、減額はされません。
返済期間が長くなるだけです。
それでも、自宅を失わずに済み、住宅ローン以外の債務を大幅カットしてもらえるのは、今後もある程度の収入の目処がある債務者にとっては、大いにお得な話です。
個人再生の申立には、債務額に関する高いハードルあり!
しかし、この個人再生には非常に高いハードルがあります。
再生債権の総額が5,000万円を「超えない」
という要件があるのです。
「超えない」ということは、5,000万円ちょうどだったらセーフということになります。
住宅ローンの債務は再生債権に含まれないので、それ以外のたとえば事業資金の借入総額が5,000万円未満なら、この「5,000万円要件」はクリアできます。
ところが、個人でも5,000万円超の債務(住宅ローンを除く)を抱えている債務者は結構います。
この「5,000万円要件」は、一般のサラリーマン・OLが思うほど楽なハードルではありません。
個人再生の申立要件を満たすため、50万円を返済した債務者がいた!
以前、私が担当していたある案件の債務者が、個人再生の申立をすることとなり、代理人弁護士から受任通知が届きました。
そうなるともう債務者への督促はできず、申立手続の進展を待っていました。
そんなある日、代理人弁護士から電話がかかって来ました。
必要な資料も揃い、近日中に申立予定とのことでしたが、1週間後の累積損害金額を概算で構わないので教えて欲しいと言われました。
すぐに端末で計算して伝えると、「うーん・・・。」と困ったような声。
実は、その債務者の債務総額(=再生債権の総額)が5,000万円を少し超えてしまっていたのです。
申立時までには5,000万円以下になっていないと、申立自体が受理されなくなります。
こちらはどうすることもできません。
結局、その債務者がこちらに約50万円を返済し、総額5,000万円未満にしてから申立を行いました。
50万円と言えば結構な金額なので、個人再生申立をするような人にとっては負担だったはずですが、個人再生の申立ができなければはるかに大変なので、何とか工面したのでしょう。
最後に・・・。
今まで書いてきたように、個人再生による債務整理は債務者にとってメリットが大きいのですが、その分要件も甘くはありません。
特に「5,000万円要件」は意外と難関です。
また、住宅ローンを返済しながら、3~5年で債務総額の20~30%も分割返済するのは、相当しんどいです。
中には再生計画通りの返済が履行できず、破産へと移行してしまう事例もあります。
個人再生申立を検討なさっている方には、そうした問題をしっかり理解した上でご検討いただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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