今回ご紹介する日本映画
「アルプススタンドのはしの方」(2020年)
は、一般的な知名度ははっきり言って低いです。
大手映画会社の作品ではなく、派手な宣伝も全くされませんでした。
有名俳優・女優も出演しておらず、全国のシネコンでロードショー公開もされませんでした(コロナ禍の影響もあり)。
友人の勧めで観たが、面白さに衝撃!
しかし、作品としての完成度は
超一級品
です。
私は映画館では観ませんでした。
私は友人(このブログに何回か登場)の勧めで、TSUTAYA DISCASのレンタルDVDで観ました。
近年の日本映画には、興味を持てる作品自体があまりありませんでした。
そんな中、
「こんな作品があったなんて!」
と衝撃を受けるほど面白かったのが、この作品です。
原作は高校演劇の戯曲!監督の才能にも驚き!
この作品には原作があります。
しかし、小説やマンガではありません。
戯曲です。
それも、プロによる商業作品ではありません。
第63回「全国高等学校演劇大会」で、最優秀賞を受賞した作品です。
2019年(令和元年)には、プロの俳優・女優によるリメイク版が公演されました。
翌2020年(令和2年)夏に、劇場版公開の運びとなりました。
メガホンを取ったのは、
城定秀夫(じょうじょう ひでお)監督。
失礼ながら、私はこの監督の名前を知りませんでした。
他の作品も観たことがありません。
2003年(平成15年)の監督デビュー以来、ピンク映画やVシネマを100本以上手掛けた方で、映画界では注目されている監督らしいです。
しかし、この作品を観さえすれば、城定監督の途轍もない才能が分かります。
舞台は夏の甲子園1回戦。しかし・・・。
舞台は、兵庫県西宮市の甲子園球場。
プロ野球「阪神タイガース」の本拠地であると同時に、全国の高校球児たちにとっての聖地です。
ある高校の野球部が、夏の甲子園に出場することとなりました。
他の生徒たちも、1回戦の応援に駆り出され、アルプススタンドで声援を送ることに。
スタンド上部の端の方の席に座っているのは、高3で演劇部に所属する女子生徒、
安田と田宮。
安田は模試の成績が芳しくなく、受験に不安を抱えている模様。
そして、演劇コンクール直前に部員がインフルエンザにかかり、出場辞退となったことを、まだ引きずっています。
田宮はそんな安田に気を遣っているようで、二人の会話はどこかぎこちない感じです。
二人の斜め前の座席に座ったのは、元・野球部で同じく高3の男子生徒、
藤野。
実は藤野は、レギュラー部員たちとの実力の差を思い知り、野球から離れました。
そのため、試合を観る視点もどこか屈折しています。
全くの野球音痴である安田と田宮が、一つ一つのプレーにとんちんかんな意見を述べるのを見かねて、色々説明してやります。
そして、自分よりも才能がなく、レギュラーは無理なのに、控え選手として試合のベンチに座っている同級生・矢野を小馬鹿にしています。
安田・田宮・藤野の3人とも、心に何か鬱屈したものを抱えているのが、映画を観る側にも伝わります。
友達なしの秀才も、アルプススタンドの端に・・・。
しばらくして、3人の少し上の最上段通路に現れたのは、帰宅部の高3女子生徒、
宮下。
高3の初めまで、ずっと学年トップを守っていた秀才です。
しかし、友人は一人もいません・・・。
宮下も野球に全く興味がありませんでしたが、憧れている野球部のエースピッチャー・園田の雄姿を見ようと、甲子園にやって来たのでした。
熱血過ぎる教師、ブラスバンドの文武両道女子にも問題が・・・?
そんな4人は、ちょっとしたきっかけから会話を交わすようになり、一緒に試合を観戦します。
そこへやって来たのが、英語教師の
厚木。
野球部とは何の関係もないのですが、必死で自校の野球部を応援しています。
そして、スタンドをあちこち動き回り、生徒たちにも
「もっと声出そう!」
などと煽ってきます。
いわゆる「ウザい」タイプです。
安田たち4人も、困惑気味です。
一方、アルプススタンドの中央付近には、高校野球に付き物のブラスバンド部が陣取り、野球部を鼓舞しようと懸命に演奏しています。
部長の高3女子・久住は、学業も優秀。
夏休み前の試験では、宮下から学年トップの座を奪ったほどです。
そして、実はエースピッチャー・園田と付き合っていました。
先の4人とは違い、学校生活では
「真ん中」
グループに属する生徒です。
しかし、この久住も何か問題を抱えていそうです・・・。
舞台はほぼスタンドのみ、グラウンドは全く映らず!
安田、田宮、藤野、宮下、厚木、久住と、それぞれ心に満たされないものを抱えていそうな各人は、試合を観戦する中でどうなっていくのか・・・?
ネタバレ防止のため、これ以上の展開は書かないでおきます。
この映画の大きな特徴は、基本的に
「アルプススタンドしか映らない」
ところです。
所々で球場内の通路や休憩スペースは出て来ます。
しかし、本来野球には不可欠の
「グラウンド」
も出て来ません・・・。
実際の撮影は神奈川県の平塚球場で行われたそうです。
しかし、映画の定石として出て来るはずの、甲子園球場の外観すら映りません。
作品全体を通して、アルプススタンドの下から上向きに撮影するというアングルが、基本となっています。
スコアボードの電光掲示板も、一切出て来ません。
制限だらけの中、観客を引き込む監督の手腕は素晴らしい!
「低予算映画だから、安上がりになるよう工夫した。」
と安直に考えるのは、大きな間違いです。
自由なカメラアングルが封じられた
「制限だらけ」
の条件下で、観客を飽きさせない作品を作るのは、並大抵のことではありません。
そうした制限をむしろ逆手に取り、観客にドキドキワクワク感を与えたまま、最後まで引っ張って行きます。
城定監督の手腕には、
「素晴らしい!」
と言う他ありません。
俳優・女優陣も、無名ながら見事な名演技!
出演している俳優・女優陣(と言っても、台詞があるのは8人だけですが・・・)も、失礼ながらまだ知名度の低い方ばかりです。
しかし、テレビドラマや映画によく出る若手俳優・女優が束になっても敵わないような、見事な演技を見せてくれます。
どの方も今後、どんどん表舞台に出て来るのではないでしょうか。
激辛評論家もヨイショ抜きで絶賛!
この作品を勧めてくれた友人からは、雑誌「映画秘宝」の城定監督インタビューのコピーをもらいました。
そこには、翻訳家・映画評論家
柳下毅一郎さん
のレビューも載っていました。
柳下さんは、単館上映で期間も1〜2週間という、超マイナー日本映画でも、自腹で観に行かれる強者(つわもの)です。
「皆殺し映画通信」シリーズ
という著書も出されており、つまらない映画やダメな映画には、一切の忖度なしに有罪判決(笑)を出すことでも有名です。
その柳下さんが絶賛なさっているのを読み、
「この映画は面白そうだ!」
と感じました。
実際にDVDで観て、その予感は見事に当たっていました。
最後に・・・。
上映時間は75分と、短い方です。
しかし、内容は非常に濃いです。
名作となる要素が凝縮されています。
是非DVDでご覧いただきたい作品です。
絶対に
「お金も時間も損した!」
と思わない、満足度100%の映画です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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