近年、劇場公開される映画やテレビアニメで、オープニングやエンディングのクレジットに
「~製作委員会」
という表示が出て来ることが多いです。
この「製作委員会」とは、アニメや映画、演劇やゲームソフトなどの映像・芸術作品を製作する際、複数の企業が出資する方式のことです。
出資、つまりお金を出した企業の集合が「製作委員会」です。
失敗のリスク軽減が『製作委員会』のメリット!
映画・アニメなどの映像・芸術作品を作るには、かなりまとまった額のお金が必要となるのは言うまでもありません。
数千万円~数億円レベルの費用を工面するのは簡単ではなく、一社単独でスポンサーになってくれる企業も、このご時世ではなかなか見つかりません。
見つかったとしても、映像などのエンタテインメント作品は、確実に儲かる類の投資ではありません。
大当りして巨額の利益が入ってくることもあれば、大コケして投資が水泡に帰すこともあります。
製作会社も、作品が大失敗すると倒産の憂き目に遭うリスクを背負います。
そうしたリスクを軽減するためのシステムが、「製作委員会」システムなのです。
日本で『製作委員会』が拡大したのには二つの理由が?
「製作委員会」システムは日本では主流となってきていますが、外国ではさほど普及していないようです。
このシステムの詳細については、ここで述べるスペースもなければ、私の知識も乏しいため省略します。
当然ながらメリットとデメリットの両方が存在し、擁護派と批判派が議論を闘わせています。
単なる一映画ファンの私が素人視点から見たところ、二つの大きな要素が日本における「製作委員会」システムの拡大を後押ししたと考えられます。
大物プロデューサーの閃きより、集団の確実性へ!
まず一つ目は
「大物プロデューサーの減少(あるいは絶滅)」
です。
昔(戦後~昭和50年代)は、知名度があり人脈も豊富ないわゆる「やり手」の大物プロデューサーが結構いました。
また、映画会社のトップが積極的に製作に関わり、資金や人材を集めてくることも多かったのです。
角川書店の元社長、角川春樹氏が典型例でしょう。
また、松竹映画で色々な話題作に携わった奥山和由氏の名前も挙げられます。
しかし、1990年代初めのバブル崩壊以降、大物プロデューサーと言えども単独(あるいは数人)では、資金・人材集めを取り仕切ることは難しくなりました。
そしてエンタメ業界も、アクの強い大物の目利き・閃きに賭けるより、集団で確実性を高める方向へと舵を切りました。
もっとも、大物プロデューサーの活躍の場は、アメリカのハリウッドでも狭くなってきています。
1970~1980年頃はディノ・デ・ラウレンティス、1980年代末~1990年代前半頃はマリオ・カサールなど、クセのある名物プロデューサーたちが時折特大ホームランをかっ飛ばして、話題をさらっていました。
しかし2000年代に入るとアメコミ原作もの、ヒット作の続編もの、リメイクものなど
「100点満点は無理だが、20点もない」
無難な企画が多くなり、ハリウッド映画の「工業製品化」が加速しています。
『製作委員会』なら、製作会社も出資者も責任逃れができる!
そして二つ目は、
「責任を取りたがらない」
という傾向が、作り手及び出資者の間で非常に強くなっている点です。
前述したように、映画やアニメ、ゲームソフトなどは当たれば大きいのですが、外せば倒産・夜逃げの危険もあります。
アメリカでは過去にユナイトやカロルコといった有名な製作・配給会社が、作品の大失敗が原因で倒産に追い込まれています。
日本の映画関係者も、その二の轍を踏むのはもちろん真っ平でしょう。
そうして、ハイリターンを狙ってハイリスクを引き受ける人間や会社は、絶滅に近付いています。
作品が当たればそこそこの利益配分に与れ、コケても損害を最小限に抑えられる「製作委員会」システムは、日本企業、ひいては日本社会にとって
「責任逃れ」
がしやすい、ありがたいシステムなのでしょう。
60点~80点の作品は確実に作れるかもしれないが・・・。
もちろん「製作委員会」システムにより作られた作品にも、良質な作品や大きな利益を産み出す作品はあるはずです。
しかし、「製作委員会」システムは野球に例えれば
「ホームランか三振か」
の打者が一人もおらず、
「四死球での出塁率が高い」
「毎年確実に三割は打つ」
打者ばかりを獲得するチームのようです。
そんな野球チームを必死に応援する気になれるでしょうか?
映画も同じで、そつのない
「60点~80点」
の作品ばかりだと、正直イヤになってきます。
最後に・・・。
エンタメ業界もビジネスの一分野であることを鑑みれば、それも仕方ないことかもしれません。
しかし、映画ファンやアニメファン、ゲームファンや演劇ファンは、
「無難なもの」
を求めているのではありません。
世の中には、確実に「60点~80点」を追い求める人間や企業が、ウンザリするくらい存在します。
我々もその中の一員かもしれません。
せめてエンタテインメントを楽しむ時間くらいは、
「0点か100点」
で勝負する作品に出会いたいのです。
そうした観点から見ると、「製作委員会」システムは、エンタメ業界に長期的にプラスをもたらすシステムだとは思えません・・・。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。