【書評】田崎基「ルポ 特殊詐欺」を文科省推薦図書に!

以前このブログで

「令和日本の敗戦」(ちくま新書)

という本を紹介しました。

 

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8月に読んだ「令和日本の敗戦」(ちくま新書)という本に、感銘を受けました。著者は田崎基(たさき もとい)氏。神奈川新聞の記者です。タイトルだけ一見すると「日本の敗戦?戦争も70年以上してないのに、どういうこと?」[…]

マスクを着けて座り込む女性

 

著者は田崎基(たさき もとい)さん。

神奈川新聞の現役記者です。

7年超の歴代最長政権となった

「第二次安倍政権」

が残した様々な問題につき、緻密かつ明快に分析した力作です。

大手紙の記者の著作よりも、はるかに優れた内容であり、ぜひ紹介したいという気になったのです。

 

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次のテーマは『特殊詐欺』!

その田崎さんの二作目の著書として、2022年(令和5年)11月に発行されたのが、

「ルポ 特殊詐欺」(ちくま新書)

です。

今回のテーマは、書名にもある通り

「特殊詐欺」

です。

2021年(令和3年)6月〜2022年(令和4年)8月に、神奈川新聞に連載された

「トクサギ1〜3」

がベースとなっているそうです。

日本では、2020年(令和2年)〜2022年は、コロナウイルス禍の真っ只中。

「ほぼ失われた3年」

と言っても差し支えないでしょう。

その間にも、特殊詐欺が日本各地で頻発していたことになります。

改めて驚くと同時に、薄ら寒い気持ちになってしまいます。

 

独特の視点や手法で、読者は様々な立場を擬似体験!

本書の特徴は、大きく三つ挙げられます。

作中に出て来る言葉も借りて表現すると、

(1)「犯人側からの視点」、「事件の詳細」、「背後関係」に重点が置かれている。

(2)新聞記事には珍しい「ルポルタージュ」の手法が用いられている。

(3)警察の捜査関係者や弁護士などへの取材に加え、執行猶予中の元詐欺犯人や、拘置所にいる被告への面談による取材、裁判の傍聴などによる、立体  的な取材。

この三つの特徴が組み合わさり、読者は単なる傍観者ではなくなります。

犯人あるいは被害者、警察の捜査員の立場を擬似体験することになります。

読んでいる途中で、被害者の恐怖や悔しさ、犯人の異常で切迫した心理状態が、臨場感を伴って伝わってきます。

 

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全六章、最初の二章でエンジン全開!

本書は、

第一章「暗躍する捨て駒たち」

第二章「粗暴化する特殊詐欺」

第三章「より巧妙に、より複雑に」

第四章「暴力団と特殊詐欺」

第五章「人生を見つめ直す加害者」

最終章「トクサギの行方」

の全六章から構成されています。

第一章ではいきなり、

「かけ子」

「受け子」

「出し子」

といった特殊詐欺の実行部隊、そして連中を操る

「主導役」

の、具体的でリアルな行動描写に驚かされます。

ところが次の第二章では、そうした人間たちが、凶暴かつ杜撰な

「強盗」

に手を染めていく変転の理由が、詳細に語られます。

2023年(令和5年)初頭、日本各地で高齢者宅を狙った強盗事件が多発し、殺人にまで至ってしまった事件もありました。

マスコミでも大きく報道され、社会を震撼させたことは、ご記憶の方も多いでしょう。

そうした事件の背景も、第一章及び第二章を読むことで理解できます。

 

詐欺集団の内外でも騙し合い、組織構造は複雑化!

そして第三章では、

特殊詐欺グループの形態の変化

グループ内外での裏切り・騙し合い

など、犯行方法以外の部分が巧妙化・複雑化していく様を描いています。

元々、特殊詐欺グループの全体像は、内部の人間でもよく分からないようになっています。

しかし、他のグループに受け子や出し子を潜り込ませ、現金やキャッシュカードを横取りする

「飛び」グループ

が現れ始めました。

そこで、「飛び」防止の対策が採られたり、「飛び」グループのメンバーを見つけ出し、新たな詐欺や強盗をやらせたりします。

こうなると、もう組織構造はメチャクチャに入り組んできます。

 

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『トクサギ』の裏にはやはり暴力団!

第四章では、特殊詐欺の影にはやはり暴力団が蠢(うごめ)いている事実が語られます。

21世紀初頭から、急速に

「暴排(=暴力団排除)」

の取り組みが進み、並行して法律改正も行われました。

今まで暴力団の資金源となっていた

競馬などの「ノミ行為」

不動産の「占有屋」

企業を狙った「総会屋」

などが、ほぼ全滅に追い込まれました。

いわゆる

「シノギ」

を失った

「反社会的勢力」

つまり暴力団が目を付けたのが、特殊詐欺でした・・・。

 

特殊詐欺と社会問題は、密接している!

続く第五章では、ある特殊詐欺犯(2023年6月現在、服役中)の生い立ち及び経歴、犯罪の経緯、本人の手記の内容などが、拘置所での面会を基に描かれます。

著者の視点は冷静です。

「不幸な環境のせいで悪事に走った」

という論調では決してありません。

しかし、

貧困や虐待などの社会問題が、特殊詐欺と密接にリンクしている

実情が明らかにされます。

また、受け子や出し子などの詐欺犯には、周囲が気付かないまま普通に学生生活や社会生活を送ってきたものの、実際には

軽度の知的障害

発達障害

を持った人間が一定数含まれています。

そうした人たちが、巧妙に特殊詐欺の末端に取り込まれていく様子も描かれています。

これは、テレビや新聞・週刊誌などでほぼ取り上げられない視点です。

 

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若年層への啓発が大事!中高生への推薦図書に!

最終章では、特殊詐欺の今後の成り行きや、被害防止への様々な対策が語られています。

そして、著者からの提言もなされています。

著者は、

中高生などの若年層への啓発

の必要性を訴えています。

「本書が多くの中高生に読まれることを願ってやまない。」

とも書かれています。

これには、私も全く同感です。

本書は、現役新聞記者の著作です。

よって、読者への伝わりやすさが念頭に置かれています。

中高生や20歳台前半の、普段本を読まない若者にも読みやすく書かれています。

全国全ての中学校・高校に配布されてもいいくらいです。

文部科学省の推薦図書にすべきだと思います。

どれだけ英語やプログラミングの知識を身に付けても、

「うまい話には裏がある。」

「楽して儲けられるほど、世の中は甘くない。」

という根本的な真理を身に付けないと、世渡りはできません。


最後に・・・。

前作と違い本書には、

ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんの推薦文

が帯に書かれていました。

我々のような弱小ブログの応援など、もはや必要ないかもしれません。

ですが、当ブログは

「もっと読まれるべきだと思った本は、勝手に宣伝する」

のをモットーにしています。

この本が、より多くの人に読まれることを願っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。