皆様は横山源之助という人物をご存知でしょうか?
明治時代後期に活躍したジャーナリストです(1871年(明治4年)~1915年(大正4年))。
下層社会、すなわち貧困層の現状を題材としたルポルタージュ作品を数多く残しています。
代表作「日本之下層社会」の内容がヘビー過ぎる!
その中で最も有名で、横山の代表作とも言うべき作品が
「日本之下層社会」
です。
1899年(明治32年)に出版されたこの本で、東京を始めとする大都市の労働者、地方の小作農や工場労働者など、「文明開化」、「富国強兵」へと突き進む日本の、まさしく底辺を構成して支えている人々の生活・労働環境を、つぶさに観察・取材して明らかにしていきます。
人口や男女比、物価や賃金額などの詳細なデータも豊富に例示し、読者の目の前に「下層」社会の現実を浮かび上がらせます。
客観的な語り口が、明治日本の現実の厳しさをありのままに伝える!
当然、そうした社会状況への憤りがこの作品の根底にあるわけですが、そう激しい調子で糾弾するというスタイルではなく、数字をふんだんに示したり様々な事実を客観的に描写するという、意外に落ち着いた筆致です。
しかし、冷静な描写であるがゆえに、貧しい人々(老人から子供まで)の苦境や絶望が希薄化されず、ありのまま伝わってきます。
明治時代と現代(21世紀)とは社会環境が大きく異なるとはいうものの、全国のいわゆる「貧民」たちのあまりにも厳しく悲惨な、日々の生活・労働条件などを知ると
「これが日本で起きていたことなのか?」
と愕然としてしまいます。
まるで日本そのものが「ブラック企業」化していたとしか言えないほどです。
令和日本の現状が、本の内容にどことなく似ている・・・。
ここでふと考えてみると、
「こういう状況って、見覚え・聞き覚えあるような・・・。」
という既視感を抱きます。
21世紀に入ってからのこの20年の日本社会にも、「日本之下層社会」で描かれているのとよく似た状況が、次々と出現しています。
非正規雇用の低賃金労働、雇い止め、パワハラ、「隠れ貧困」の急増、毎日の食事も満足に摂れない子供、年金では生活できない高齢者・・・。
本質的には明治の日本と変わらない「下層社会」が、私の気付かないうちにあちこちで復活してしまっています。
最後に・・・。
21世紀の日本も「失われた10年」からの脱却を目指し、「構造改革」、「規制緩和」、「自由競争」といったスローガンに踊らされて突き進んできました。
そうして20年経った結果が、令和2年の今の姿です。
残念ながら、明治時代のような国家的躍進は全く果たせていません。
「坂の上の雲」を掴むどころか、「坂の下」に転げ落ちようとしています。
横山源之助も、あの世で嘆いているのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。