債務者が債務の返済を滞らせると、当然ながら債権者から督促を受けます。
金銭消費貸借契約(お金の貸し借りの契約)上は、返せない方が基本的には100%悪いということになります。
債務者がどれだけ筋道立てて論理的に説明しても、返済が履行されない限りは、債権者には単なる言い訳としか受け取れません。
精神的なプレッシャーを背負った債務者は、独特の論理、表現で反論してくることがあります。
なぜか『逆ギレ系』発言が多い!
若干の変更を加えていますが、全て私が実際に債務者の人たちから言われたものです。
まず初めは、いわゆる「逆切れ」系です。
「確かに俺は、○×銀行からは金を借りた。ただ、あんた自身から借りたわけじゃない。あんたに、そんなに偉そうに金を返せという権利があるのか?」
「アンタ、何歳だ?自分よりはるかに年上の人間にそんな物の言い方をするって、一体どんな教育を受けてきた?」
「担当者の言葉使い、態度が気に入らない。」というのは、債務者の常套句です。債権回収の担当者は、そうした揚げ足を取られないため、落ち着いて慎重な言葉使いをするように指導されています。しかし、それでも債務者の側としては、それくらいしか反撃する武器がないのでしょう。
「ワシは、△○党のナントカ先生をよく知ってる。これから先生に話をしに行く。お前なんか、いつでもクビにできるんだぞ!」
政治家の名前を持ち出してくるのも定番パターンですが、政治家の圧力で債務額を減免させることができた事例は、聞いたことがありません。
そもそも、政治家と懇意だというのも眉唾物で、政治家本人が連絡してくることなどほぼありません。あっても、秘書が(渋々という感じで)状況の確認をしてくるくらいです。
その場合も、融資に無関係の第三者に詳細は教えられませんので、いわゆる塩対応になってしまいます。
もちろん、クビにされることもありません(笑)。
「お宅も融資の前に審査とかしたでしょう?その時にキチンと審査してたら、ウチに融資しない方がいいと判断できたんじゃないですか?」
「この歳で会社を潰して、働き口もない。金なんて返せるはずないって、誰でも分かるだろう!そんな簡単なことも分からんで、金返せって、アンタ何考えてる?」
気持ちは分かりますが、こっちにそれを言われても困るんですけど・・・という感じです。
開き直られると、債権者もカチンと来る!
続いては、「開き直り」系です。
「別にわざと返さないんじゃない。色々苦しくて、今はどうしようもない。お宅に返せるようになったら、こっちから連絡する。だから、それまで督促とかは止めて欲しい。」
「返済可能になるまで督促するな。」は、自分の立場を理解してないから言えるのでしょうか…。
「お宅の他にも色んな所から借金してて、キツい督促をしてくる所から先に返してる。督促のゆるい所は後回しにしてる。」
遠回しに「あんたの所は督促が甘いから後回しだ。」と言っているようなものです。
カチンときた私は、
「でしたら、こちらももっと頻繁にご連絡しましょうか?」
と言いました。相手は、
「それは困るんだけど・・・。」
と口ごもってしまいました。
「裁判でも何でも、好きにしてもらっていいですよ。差し押さえられるような財産なんて、何もないですからね。」
ある意味最強です。返済交渉が進展する可能性がほぼゼロです。相手の言う通り、裁判に訴えるしか方法はありません。
しかし、本当に資産がなければ、裁判に勝訴して預金差押などを行っても、手続費用倒れに終わってしまいます。
「失う物のない人」は、インターネット上で流行した言葉を借りれば、「無敵の人」でもあります。
個人的には、そんな境地には到達したくないところですが・・・。
野球で言えば、ど真ん中のストレートを投げ込んできています。
ある意味清々しいほどに正直ですが、「全く返済する気ないですよね?」とツッコミを入れたくなります。
不幸自慢(?)をされても、債権者としては・・・。
そして、「家庭の不幸アピール(?)」系もあります。
「お宅ら債権者に毎日督促されて、嫁はいつも怒ってばかり。子供はノイローゼになった。家庭はメチャクチャだ。どうしてくれる!」
このパターンは意外に多いです。そうした辛い状況は気の毒ですが、「こっちに責任転嫁されても困るんですけど・・・。」と思ってしまいます。
「実は、親戚からもかなり借金してます。親戚同士だと逃げ隠れできなくて、家にまで乗り込んで来られるので、先に返してます。そっちが終わるまで、しばらく待ってください。」
このパターンも時々あります。お金が絡むと、親戚同士の方が他人よりも怖いということが分かります。でも、「債権者平等の原則」に則り、他の債権者にも返済してもらわないと・・・。それに親戚と違い、金融機関や貸金業者への債務は、利息や延滞金が膨らんでいくのを忘れてませんか・・・。
「私が死んだら生命保険金が出ます。近いうちに首を吊るんで、家族には保険金でお宅に返済するように言っておきます。もう少し待ってください。」
当然ながら、
「はい、分かりました。ご家族からのご連絡をお待ちしてます。」
とは言えるわけがありません。
こちらが困るのを見越してそういうことを言う債務者もいますが、中には
「この人、もしかして本気かも・・・。」
と心配になってしまう、負のオーラが出ている人もいます。
また、今後の返済の話は全くせず、今までの人生の歩みや、大きな債務を抱えるに至った経緯を延々と話し続ける人もいます。
「あなたの一代記を聞いても、債権回収には繋がらないんですが・・・。」
と思いながらも、相手の話が結構面白く、聞き入ってしまうこともあります。
言い訳しまくる人より、謝り続ける人の方が手強い!
ここまでは色々なタイプの釈明、反論を書いてきました。しかし、たまにひたすら「すいません。」、「申し訳ありません。」と頭を下げ続けて、ほとんどしゃべらない人がいます。
正直なところ、回収担当者としては、そうしたタイプの債務者の方が苦手です。
大部分の債務者は、何とかして今の苦境から逃れたくて必死です。
「自分の他にも、借金を返せてない人間なんてたくさんいるんじゃないか?何で自分にばかり督促してくるんだ!他の連中にも、もっと厳しく督促していけよ!」
という内容の発言もよく聞かされます。
担当者からすれば、そういう人たちの方が返済交渉しやすいのです。反対に、現実を悪い意味で受け入れてしまい、抜け出そうとあがいたりもがいたりしない人に対しては、交渉の筋道を見付けるのが困難です。
最後に…
金融の世界では、お金を借りる時は「お客様」として丁寧に扱われますが、約束通り返済できなくなると、「債務者」として厳しい態度で詰められます。
債権回収の現場では、人間が追い込まれた時の「素の部分」を見せられます。嫌な気分になることも多々ありますが、人生勉強の一環であると考えれば、貴重な経験だと捉えることもできます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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