不動産競売の知られざる世界

お金や法律などの話(夫)

そもそも競売とは?

新聞に、時々「○×地方裁判所 不動産競売入札公告」が1~2ページほど掲載されているのをご存知の方は多いと思います。

日本各地の地方裁判所で、不動産競売事件で扱われている不動産を、一定期間(一般的に約2週間)の間に入札にかけ、最高価格での入札者に売却するという制度です。

競売と書いて「けいばい」と読みますが、いわゆる競り、オークションと同じです。ただ、対象が不動産なので、ネットオークションのように誰でも気軽に参加できるわけではありません。

不動産競売は、債務者などの不動産に抵当権や根抵当権を有する債権者や、裁判の確定判決(債務名義と言います)を有する債権者が、その不動産を売却してお金に換え、債権の回収を行うため、裁判所を通して競りにかけてもらう制度というのが、大雑把な説明です。
詳しい内容は、ここでは省略します。

不動産競売が申し立てられる原因は基本的に

(1) 住宅ローンの返済延滞
(2) 事業用などの借金の返済延滞

です。申立債権者は、銀行などの金融機関、保証会社などといった法人がかなりの割合を占めますが、もちろん個人の場合もあります。

各地の地方裁判所には管轄地域があり、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申立する必要があります。

裁判所が申立を受理し審査の上、不備などがなければ、正式に裁判所の事件(案件のことです)として手続を始めるという、「開始決定」がなされます。

この開始決定は、申立債権者、債務者、所有者(後で説明しますが、必ずしも不動産の所有者イコール債務者とは限りません)に書面で通知されます。

また、当該不動産に抵当権や仮差押などを有する他の債権者(登記がなされていることが必要)にも、「債権届出の催告書」という書面が送られます。
これらの債権者は、定められた期限までに、裁判所に自らの債権額を書面で届出しないと、不動産の売却代金からの配当の際、不利益を被る可能性があります。

開始決定が出るとどうなる?

開始決定が出ると、裁判所の執行官が当該不動産を訪問して、現地調査を行います。外観や内部の写真を撮影したり、居住者に聞き取り調査をします。

不動産の所有者に事前に連絡があり、調査に来る日時は分かるのですが、所有者にとっては気持ちのいいことではないはずです。賃貸用ではなく、自分が住んでいる不動産の場合、他人が家に上がり込んで写真を撮ったり、色々な所を確認して回るのを眺めるわけですから・・・。

そうした調査と共に、執行官は法務局などで図面を徴求したり、役所で必要事項を確認したりします。それらを基に、執行官は「現況調査報告書」を作成し、裁判所へ提出します。

次に、裁判所が委託した不動産鑑定士が、「競売評価書」を作成し、裁判所へ提出します。ここで出された評価額が、入札基準価額(入札する際の最低ラインとなる金額)の基礎となります。

「現況調査報告書」及び「競売評価書」を基に、裁判所書記官が「物件明細書」を作成します。

開始決定から早くて5~6ヶ月ほどで、「入札期間」が定められます。
事件によって異なりますが、10日~2週間が一般的です。

その後、裁判所に「現況調査報告書」、「競売評価書」、「物件明細書」(通称3点セットと呼ばれます)が備え付けられ、2週間ほどの間に入札希望者がそれらの資料を閲覧できます(手続すれば誰でも閲覧可能)。

入札希望者は、所定の入札書に必要事項や入札金額を記入します。そして入札金額の20%を保証金として、裁判所の指定する金融機関の口座に振り込みます。このお金は、落札できなければ返還されます。

振込を証明する書面を添付し、裁判所に入札書を提出します。

過去の不動産競売ブームは甘くなかった!

2000年代半ば頃、一般人の間で不動産競売がちょっとしたブームになり(テレビ・雑誌などのマスコミも煽ってました)、実際の居住用または投資用として落札しようと、明らかに素人らしき人たちが、裁判所内をウロウロしていました。私も、子連れの主婦らしき女性や、定年退職した元会社員らしき男性が閲覧手続をしているのを目撃したことがあります。

しかし、プロの不動産業者でも下手を打つ(失敗する)ことのある競売は、アマチュアにはさらに難しいものです。後述しますが、落札できたものの色々なトラブルが発生し、大火傷を負った人が多数出たそうです。

上記の3点セットには法律用語などの専門用語が多く使われており、素人にはかなり分かりにくいです。民法や不動産の知識をある程度持っていないと、誤った判断をしてしまいます。

また、「現況調査報告書」と「物件明細書」の内容は、100%正しいとは限りません。執行官などによる調査には限界があるからです。公信力がないのです。つまり、内容が間違っていても裁判所は責任を負わないのです。

そうしたことを理解せず、本来妥当な金額より高値で入札してしまい、落札後に多くの問題を発見しても、手遅れです。

落札した人は何をするのか?

入札期間終了より約1週間後に、裁判所で開札が行われます。保管していた入札書面の封筒を開封し、複数の入札があった場合は、最高額で入札した人が買受可能となります(もちろん、入札条件を満たしている必要あり)。

買受人となった人は、裁判所の側の重大な誤りがない限り、自らの入札を取り消すことはできません。不動産に瑕疵(大きな欠陥や、法律上の規制など)があっても、「なかったことにしてください。」とは言えません。

裁判所の定める納付期間内に、入札金額の残り80%の金額を振り込まなければいけません。

納付期間内に納付できなければ、保証金は没収されてしまいます。

また、今後新たに不動産競売入札に参加できないという、大きなペナルティーが課されてしまいます。

入札金額全額を納付したら、裁判所から法務局へ所有権変更登記の嘱託がなされ、買受人名義に登記が変更されます。

これ以降は、裁判所は一切関与しません。

前の所有者が居住したままのケースも多く、明け渡しの交渉が必要ですが、買受人が自分でやらないといけません。

アマチュアには非常に困難な仕事で、そうした交渉を代行する不動産業者もいます。当然有料ですので、買受人にとってはさらなる支出になってしまいます。

前所有者が明け渡しに応じない場合、「引渡命令」や「明渡訴訟」といった法的措置を申し立て、最終的には強制的に退去させなければなりません。

昔は競売妨害が頻発していた!

今までお読み頂いて、不動産競売は結構難易度の高い手段だとお分かり頂けたと思います。

色々苦労して、不動産を手に入れることができても、居住者を立ち退かせる
のが最後の難関で、テレビゲームで言うところの「ラスボス」登場という感じです。

バブル崩壊後の1990年代は、競売妨害の行為が頻発していました。

暴力団員などが、前所有者との「短期賃借権」を主張して物件に居座ったり、敷地内にプレハブ小屋を勝手に建てるなどです。

そうした物件に入札して買い受けようとする物好きはいませんので、入札者が現れず入札不成立になる事例も出ます。

また、評価額もかなり低くなり、本来の妥当な値段で落札されなくなってしまいます。

暴力団などが前の所有者に泣き付かれ、報酬を得て競売妨害を行うこともあれば、そういった行為で他の入札者が手を引き、評価額及び最低入札額が下がった不動産を、暴力団のフロント企業が落札することもありました。

魑魅魍魎のうごめく、カタギは入り込みにくい世界でした。

現在は法律改正により、競売妨害を排除しやすくなったため、そうした行為は激減しました。暴力団にとっても、旨味のある分野ではなくなったからです。

しかし、競売妨害は絶滅したわけではなく、都市中心部の再開発などで金儲けの機会がある事例では、裏社会の人間が暗躍しているとも言われます。

不動産の恨みは恐ろしい!

また、暴力団などではなく、前の所有者がトラブルを起こすなどの事例もありますので、買受人にとっては、退去させるまでは安心できません。

実際にあったトラブル事例を紹介します。

① 自宅を失うことになり、絶望した前の所有者が、家族を道連れに無理心中。いわゆる事故物件になってしまった。

② 前の所有者が立ち退き直前に、嫌がらせのため、家の大黒柱をチェーンソーで切断。耐震性がゼロになってしまった。

③ 裁判所による強制退去の当日、訪れた執行官の目の前で、前の所有者が灯油をかぶり焼身自殺。ここも事故物件に。

自分の不動産を失うのは確かに辛いと思います。特に、日本人は土地や家に対する思い入れが強いとされており、上記のように命を落とすほどの出来事なのかもしれません。

自分が1円も使っていなくても、不動産を取られる!もっと悲惨な事も・・・。

不動産競売において、必ずしも債務者イコール物件所有者とは限りません。

債務者(個人または法人)に頼まれ、個人事業主や法人代表者の家族や親戚が、自分の不動産を借金の担保に入れることもあります。

不動産の担保差し入れのみなら、その人は物上保証人と呼ばれます。もし債務者が借金を返済できず、担保が競売にかかっても、もし落札されれば、そこで保証責任は消滅します。担保売却後にまだ債務が残っても、物上保証人はそれ以上責任を問われることはありません。

しかし、担保を差し入れるだけでなく、連帯保証人にもなっていた場合には、そうは行きません。

担保が競売で売却されても、債務全額の完済に至らない場合、連帯保証人としての責任は残り、債務の残額の返済を求められるのです。

自分が1円も使っていない借金のため、不動産を取り上げられた挙げ句、借金の残りも返済請求されるのです。

悲惨としか言いようがありません。

親子の絆が仇になることもある。

たまに、担保所有者の父母や息子・娘が、競売を避けるために不動産を買い取るケースもあります。

中古物件の場合は金融機関の住宅ローンが使えないことが多く、その場合は現金での決済になります。親戚中からお金をかき集めて資金を用意する人もいます。

ローンが使えても、その後が問題です。所有者の息子や娘がローンで親の不動産を買い取った場合、そのローンを返済し終わらないと、新しいローンは利用できません。

自分がマイホームを手に入れようとしても、住宅ローンの審査に通らないのです。

金融機関に虚偽の申請をするなどして、仮に通ったとしても、二重の住宅ローン債務を返済し続けるのは、大変なことです。

親孝行のつもりが、自分の人生に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。

完済以外で、競売を取り下げてもらう方法は?

所有不動産が競売にかかってしまうと、それで全て終わりというわけではありません。

債権者との交渉次第では、まとまった金額を一部返済することで、競売の取下をしてもらえる可能性があります。

ただ、債務残額によりますが、少なくとも100万円単位の金額を、一括で返済する必要があります。毎月の返済が滞っている債務者が、そんなお金を工面すること自体、難しいことです。

また、競売の取下ができるのは、基本的に入札期間終了までです。それまでに話をまとめ、お金を工面して返済しなければなりません。

そして、もしそれが実行できて一旦は競売を取り下げてもらっても、債権者の抵当権や根抵当権は残ったままなので、その後また返済が滞ったら、再び競売を申し立てられる可能性があります。

もし親戚などの資金援助を当てにできる場合、一部返済による競売取下の交渉がオプションとして有り得るということです。必ず使えるオススメの方法ではありません。

最後に・・・

新型コロナウイルスの経済的ダメージは、これから本格的に表面化してくると思います。個人の住宅ローン破綻、不動産業者の経営破綻が激増するはずで、不動産競売の申立件数も一気に増えていくことが予想されます。

この文章をお読みの皆様が、そうした災禍に巻き込まれることなく、平穏な生活を送られますよう、心から願っております。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。