テレビや新聞などで、「マルチ商法」という言葉を見たり聞いたりした方々は多いと思います。
一般的なイメージは、「胡散臭い」、「楽して儲かるっていう話だけど、詐欺っぽい」という感じでしょうか。
実は、マルチ商法そのものは違法ではありません。
正式名称は、「連鎖販売取引」です。
会員が新規の会員を勧誘し、勧誘された会員がまた新しい別の会員を勧誘し、組織の規模及び階層が拡大していく形の、商品の販売形態です。
アメリカ発祥で、英語ではMulti Level Marketing(マルチ・レベル・マーケティング)と呼ばれます(MMTと略されることもあります)。
「これじゃ、ネズミ講と同じじゃないの?」
そうお思いの方、貴方は鋭い!貴方は詐欺に引っ掛かりにくいタイプです(笑)。
ネズミ講は、品物などの取引がなく、お金だけが動いていくシステムで、違法です。
マルチ商法では、何らかの現物の品物を販売しますので、そこがネズミ講との大きな違いです。
しかし、実態はネズミ講と同じような組織も多く、過去の裁判ではネズミ講と判断された判例も数多く存在します。
それでも、現在でもマルチ商法は色々と形を変えて、生き残っています。
最近は、「ネットワークビジネス」というオシャレな名前で呼ばれることが多いです。
マルチ商法の仕組みとは?
マルチ商法の基本構造は、ピラミッド型の階層組織です。
最初に自分が会員となり、商品を購入します。
次に、他人を勧誘して会員にし、商品を購入させます。
何人か勧誘することに成功すると、自分のランクが一つ上がります。
それを繰り返して、ピラミッドのより上位の階層を目指します。
階層が上がると、「リーダー」や「エリアマネージャー」、「パートナー」などの役職に昇進し、成功報酬(コミッションなどと言われます)の金額が増えたりするのが一般的です。
「リーダー」や「マネージャー」と呼ばれると、外資系企業の社員みたいで、いい気分になれるかもしれませんが、仕事内容は単純です。
できる限り多くの人を勧誘する、または勧誘させることのみです。
販売する商品も、洗剤や健康食品など、いわゆるベタな日用品、消耗品がほとんどです。品質はピンキリで、百均ショップで売られている物と変わらない商品もあれば、まあまあ良いなと感じる商品もあります。
しかし、値段はけっこう高額です。単品ではなく、数十~百個単位で購入させられることが多く、万単位の出費となります。
また、健康食品やサプリメントの場合、そもそも値段が適正なのかどうかも分かりません。
ここまでお読みになられて、
「こいつはマルチ商法についていやに詳しいな。ひょっとして、過去にマルチ商法に関わっていたのか?今でもやってるのか?」
との疑念をお持ちかもしれません。
私は、マルチ商法に関わったことは一切ありません(笑)。
しかし、以前から詐欺商法などのダークなネタに興味があり、様々な本を読んできました(例えば宝島社のムック本など)。
また、大学時代からの友人が公務員であり、消費生活関連の部署で、まさしくマルチ商法の取り締まり・指導などをしていました。その友人から色々な知識を得ました。
そして、私の親族がマルチ商法に引っ掛かりかけた際、クーリングオフを実行させ、ギリギリの所で契約を取り消させることに成功しました。
そういう訳で、勝手に「マルチ対策のセミプロ」と名乗っています(笑)。
ここからは、クーリングオフのいきさつについて、詳細を書いていきます。
家族がマルチ商法に引っかかりそうになった!その一部始終とは?
今から約20年前です。
当時、一人暮らしをしていた私は、毎週土曜日の夜に実家に帰り、夕食を食べさせてもらっていました。
夕食の後、私は弟の部屋(以前は私の部屋でした)で、ベッドに寝転びながらテレビを観ていました。弟は外出していました。
ふとベッドの脇の台に目をやると、小冊子のような物が無造作に置いてあります。私は何気なくそれを手に取りました。
その小冊子の表紙には、何かのパーティーの集合写真が載っていました。
その下に参加者たちの顔写真とコメントが載っているのですが、書いてある文章は、意味のよく分からない内容でした。
「今まで頑張ってきたことが報われました。」、
「支部長のお話に、一層やる気がでました。」、
「エリアマネージャーを目指して、これからも頑張ります。」
など、「これは何だ???」という感じの内容ばかりです。
どこかの会社のパーティーにしては、冊子のどこにも社名は見当たらず、何の事業をしているのかも全く分かりません。数ページの冊子ですが、怪しい要素満載です。
「これは、おそらくマルチ商法の会社だろう。」
直感的に確信した私は、両親に、弟宛に小包らしい物が届いていないか尋ねました。
すると、二日ほど前に宅配便で小包が届き、別の部屋に置いてあるとのこと。
見に行ってみると、小包を発見しました。
送り主は、株式会社マルチカンパニー(仮名です)となっており、品名欄には「健康食品」と書かれていました。
幸い箱はそのままで、当然商品は開封されていません。
私は両親に、箱を開けないよう伝え、弟が帰宅したら、これを購入した経緯を聞くように頼みました。
翌日、母親から電話があり、弟の話の内容を聞きました。
先日、弟に高校時代の同級生から電話があったそうです。1年間同じクラスで、それほど親しい間柄ではなかったとのことですが、久しぶりにお茶でも飲もうと誘われ、数日後に近所の喫茶店に行ったそうです。
そこには、その同級生と、知らない男性が一緒に待っていたそうです。
そして、お決まりのパターンですが、マルチ商法の仕組みや、怪しい成功事例などを聞かされたそうです。
弟の知らない男性は、間違いなく同級生の上の階層の会員でしょう。
「チューター」などと呼ばれ、後輩会員が新規勧誘をする際に、一緒になってカモ、いや見込客を詰めて追い込む役の人間です。
いくら喫茶店やファミレスのような場所でも、複数の人間からあれこれ言われ勧誘されると、確かに断りにくい精神的状況に追い込まれます。
「お金がないんで、そんな高い商品は買えないです。」
と逃げたいところですが、
「大丈夫!信販会社と提携してるんで、クレジットで分割払いが出来るんです!」
と、逃げ道を塞がれてしまいます・・・(泣)。
結局、弟も典型的なカモ、いや顧客として、健康食品の購入契約を結び、会員となってしまいました。
購入額は、何と約30万円!!!
事情を把握した私は、前述した公務員の友人に連絡しました。
「各地の自治体に消費者生活センターの窓口があるから、そこに連絡すればクーリングオフの手続について詳しく教えてくれる。あと2日くらいのうちにやれば、間に合うだろう。」
とのアドバイスをもらった私は、早速実家に電話し、至急手続に動くよう伝えました。
翌日の月曜日、弟は仕事があるため、両親が代わりに最寄の相談窓口に行きました(本来、弟が自分で行くべきですが・・・)。
窓口の方は非常に親切で、丁寧に教えてくれたそうです。ちょうどその日付の内容証明郵便を送れば、クーリングオフはギリギリ可能とのことでした。
両親は、教えてもらった近くの文房具屋で、内容証明用の原稿用紙と封筒を買い、窓口に戻りました。そして、窓口の方の指導通りに、契約解除すなわちクーリングオフの文書を書きました。
そして、同じく窓口の近所に、内容証明を受け付けてくれる、規模の大きい郵便局があることも教えてもらいました。
内容証明郵便はどこの郵便局でも受け付けてくれるわけではなく、家の近所の小さい郵便局では受付不可のことが多いのです。
両親はその郵便局へ行き、内容証明郵便を出しました。そして、健康食品の小包も送り先に返却しました。
これで、とりあえず一件落着です。
相手方からは何の連絡もなかったそうです。そして、初回のクレジット引き落とし日に弟の銀行口座からお金が引き落とされなかったので、契約は完全に解除されたと安心できました。
後日、アドバイスをくれた友人にお礼の電話をし、経過を報告しました。
提携先の信販会社の名前を伝えると、友人は即座に
「そこは、色々なマルチの会社と提携している、有名な業者だ。」
と言いました。その道では名の知れた信販会社だったんですね・・・。
以上が、私がマルチ商法のカモ(笑)を被害から救った(大げさですが)騒動の一部始終です。
マルチ商法で失うものはお金だけではない!
あれから約20年が経過しましたが、マルチ商法は絶滅からは程遠い状況です。現在のコロナ不況の真っ只中、また各所で拡がっていくのではないかと危惧しています。
世の中、楽して儲かる甘い話はないのですが、我々人間の心の弱い部分にこうした儲け話は付け込んで来ます。
また、特に若い世代の人たちは、友達作りの一環のような気楽な気持ちで、マルチにハマりがちなようです。そして、意識せずに他人をカモにしてしまい、結局は損害を与えてしまうのです。
マルチ商法の本当に怖い点は、お金ではなく親戚や友人、先輩・後輩などの信用を失い、人間関係に大きなダメージを受けかねない点です。
単にお金を損しただけなら、高い授業料ということであきらめがつきます。
しかし、信用や友情は、一度失うと簡単には取り戻せません。
友人などが被った損害を弁償しても、「あいつの話は、あまり信用しないようにしよう。」とか、「あの人とは今後付き合うのを止めよう。」などと思われることは避け難いでしょう。
まとめ
最後に、マルチ商法の本質がよく分かる事実をお伝えします。
4×4×・・・と、電卓で4を14回掛けてみてください。
結果は268,435,456となり、日本の人口の二倍を超えてしまいます。
マルチ商法では、一人で四人の新規会員を集めるというのは普通ですが、ピラミッドが13段から14段になるには、もはや日本国内だけでなく、例えばソウルや上海など、外国の都市に出向いて勧誘をしなければなりません。
もしマルチ商法に勧誘されたら、この簡単な事実を思い出してください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。