私の属する世代(1965年(昭和40年)~1975年(昭和50年))は、男女とも自覚の有無にかかわらず「藤子不二雄チルドレン」であるという事実は、このブログで以前主張しました。
ご興味をお持ちの方は、こちらの記事もお読みください。
しかし、多くのチルドレンたちはいわゆる定番(「ドラえもん」!「オバケのQ太郎」、「パーマン」、「忍者ハットリくん」、「怪物くん」など、マンガやアニメが大ヒットした作品)しか記憶にないという、嘆かわしい状況になっています。
藤本先生、安孫子先生とも、非常に多くの作品を我々チルドレンに残してくださっており、定番作品以外にももっと世に評価されるべき作品が、星の数ほどあります。
今回、是非ともご紹介したいのが、安孫子先生作の「ブラック商会変奇郎」です。
主人公、変奇郎とは何者なのか?
同じく安孫子先生の傑作「魔太郎がくる!」の後に、同じ秋田書店の「週刊少年チャンピオン」1976年(昭和51年)21号~1977年(昭和52年)32号まで全23話連載された、怪奇マンガです。
と言っても、怪物が出て来たり、人がバンバン死ぬという類の「怪奇」マンガではありません。
ある意味、もっと怖い面を持つ主人公の話です。
主人公の変奇郎(苗字は結局不明のまま・・・)は、東京の副都心・新宿に住む(金持ちのボン?)平凡な中学生です(名前が既に平凡でなく、もみあげも異常に太いですが)。
父と母、そして祖父の4人家族です。
祖父、変奇左エ門は、先祖代々の土地で小さな骨董品店「変奇堂」を営んでいます。
「変奇堂」は、新宿副都心の高層ビル群の谷間にポツンと建っています。
頑固者ですが、骨董品については博識で、非常に珍しい骨董品が店に多数並んでいます。
父の変奇一郎は家業を継がず、サラリーマンとして働いています。
母はごく普通の主婦です。
ここまでお読みになられて、
「どこに怪奇マンガの要素があるのか?」
と疑問をお持ちの方も多いでしょう。
変奇郎の裏の顔にビックリ!少年マンガですけど?
実は変奇郎には、家族さえ知らない「裏の顔」がありました。
他人(例えば金持ち、有名人、権力者、時にはヤクザ)の悪行の証拠や、人に知られたくない秘密を握ると、相手に対して「口止め料」の支払い(これに色々な諸経費が加算されます)を迫ります。
つまり、恐喝屋(ユスリ屋)です・・・。
主人公が恐喝でお金を稼ぐという設定は、21世紀の日本では絶対にNGになってしまうでしょう。1976年(昭和51年)、つまり44年前でも、
「大丈夫ですか?」
との声が「少年チャンピオン」編集部でも上がったはずです。
いくら超大御所、藤子先生の作品でも・・・。
しかし、最終的にはゴーサインが出たから連載できたわけです。
「少年チャンピオン」編集部、そして秋田書店の勇気があり過ぎる決断に、敬意を表します。
元々、「チャンピオン」は他にもかなり「攻めた」作品(ある意味問題作)を多数輩出しており、
「男気雑誌」として知られています(笑)。
変奇郎の秘めたる能力とは?
しかし、ただの中学生である変奇郎が、なぜ大人相手に恐喝ができるのでしょうか?
変奇郎には不思議な超能力が備わっており、謎のペンダントを首にぶら下げるとその能力を発揮できます。
また、相手の弱みを探ったり、直接対決して口止め料の支払いを要求する際は、奇妙なマスクとマントを身に着けて現れます。
時々、「変奇堂」にある骨董品を祖父から借りて(時には買わされて)、それらの骨董品が秘める不思議な力を自らの超能力で引き出すこともあります。
過去の場面を念写できる古いカメラ、居場所の分からない相手を狙える石投げ機など・・・。
安孫子先生は珍しい骨董品(海外旅行時に収集)のコレクションをお持ちで、それらの知識がこの作品で生かされています。
変奇郎に金を払わない相手はどうなるのか?
なお、変奇郎がユスる相手が素直に金を払うことは、まずありません。
子供だからと甘く見て、時には暴力まで使い、支払いを拒みます。
そうした相手は、変奇郎の超能力によってヒドい目に遭わされます。
社会的地位を失ったり、大金を失ったり・・・。
それならまだ甘い方で、最悪の場合は命を失うことになります。
その場合でも、変奇郎は請求金額を回収してしまう場合があります。
変奇郎の家族や友人(満賀くんという親友がいます)に害を及ぼす人間も、「迷惑料」などを請求されますが、当然払わないので、恐ろしい報復を受けることになります・・・。
変奇郎はあの人気キャラと共通点がある!
変奇郎が相手に超能力を使う時、よく「ドーン!」と言い、相手に人差し指を向けます。
これは、同じく安孫子先生の傑作「笑うせえるすまん」の喪黒福造を思い出させます。
喪黒や変奇郎から「ドーン!」とやられないよう、普段の言動には注意し、他人に害を及ぼさないキレイな生き方を心掛けたいものです。
最後に・・・。
しかし、この作品はほぼ半年で終了してしまいました。
詳細は分かりませんが、やはり前作「魔太郎がくる!」のようなインパクト、いじめられた相手に仕返しする際のカタルシスが薄かった(安孫子先生が読者への影響を考慮し、わざと薄くしたとの説もあります)ことが、大きな理由ではないでしょうか。
どちらかと言えば青年誌向けの話であり、今で言う「ヤング~」のような雑誌で連載していれば、もっと長く連載が続いたかもしれません。
ちなみに、「変奇郎」の原型というべき「喝揚丸ユスリ商会」(1973年(昭和48年))も面白いので、是非合わせてお読みいただきたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 