皆様は
「望月あきら」
というマンガ家をご存知でしょうか?
望月先生は1937年(昭和12年)4月23日生まれ。
2023年(令和5年)5月現在、御年86歳です。
平成以降に少年少女時代を過ごされた方々には、馴染みのない名前でしょう。
望月先生は主に1960年代〜1970年代に活躍なさった作家で、ヒット作も多くあります。
明るい作風の作品の中で、異色の作品が・・・。
元々貸本マンガ家としてデビューなさった後、少女マンガ家として名を成された方です。
バレーボールを題材にした、週刊少女フレンド(講談社)連載の
「サインはV!」(1968年(昭和43年)連載開始:原作は神保史郎さん)
や、学園もので週刊少年チャンピオン(秋田書店)連載の
「ゆうひが丘の総理大臣」(1977年(昭和52年)〜1980年(昭和55年))
は、テレビドラマ化され大人気を博しました。
先生の作品のほとんどは、学園コメディーやラブコメディー、スポーツものです。
ドラマ化された上記二作品も、読者が安心して気楽に読める内容です。
そんな望月先生の作品の中で、非常に毛色の異なる作品が、今回紹介する
「カリュウド」(原作:日向葵さん)
です。
地味な作品だが、伝説のトラウママンガに!
週刊少年チャンピオン(秋田書店)で、1976年(昭和51年)初めからほぼ9ヶ月、全36話が掲載されました。
「少年チャンピオンコミックス」では全5巻。
大ヒットした作品ではありません。
しかし、内容のあまりのダークさが、当時の読者たちにトラウマを残しました。
そのため、連載終了から40年を超えても
「伝説のカルト作品」
として、シニア世代のマンガファンにより語り継がれています。
死刑執行の間際、死刑囚は驚くべき行動に!
第一話の冒頭は、いきなり刑務所から始まります。
一人の凶悪殺人犯である死刑囚が、死刑を執行されることとなります。
その男は
「ああ 殺したりねえ 殺したりねえ もっと殺してやりゃよかったんだ (以下省略)」
と、反省のかけらもありません。
そして、何と自分の右手の小指を噛み切ってしまうのです・・・。
その小指を、
「故郷の母親に形見として送って欲しい。」
と、看守の男性に託しました(看守にとってはいい迷惑ですが・・・)。
その後、死刑は執行されました。
しかし、看守は死刑囚との約束を守りませんでした・・・。
死刑囚の脳を移植された男子高校生は・・・。
一方、死刑囚の遺体はとある病院に送られました。
そして、世界初(?)となる
「脳の人工移植」
手術に使われました。
移植されるのは、脳腫瘍に苦しむ高校生、北十字良。
手術は無事成功。
他人の脳を移植して、元の人格が復活するのか疑問ですが、その辺りは何ら説明されていません・・・。
良は元の人格のまま退院し、高校生活に戻りました。
そんなある日の放課後、良は何かに操られるように、一度も訪れたことのない場所に足を運んでいました。
そこは、あの刑務所の前でした・・・。
良は刑務所の敷地内で、看守が死刑囚から託された小指を、排水溝に捨ててしまうのを目撃してしまいます。
その時、良の右手の小指が黒く変色していきました・・・。
この後の展開は、第1話ということを差し引いても、
「えっ!?どういうこと・・・?」
と驚いてしまうものでした。
ネタバレ防止のため、詳細は省略します。
ラストシーンを読み終わっても、
「何とも言えない後味の悪さ」
が、しばらく心の中に残り続けました。
第2話から、悪人を成敗しまくる!
そして次の第2話から、全く違った物語が平然と始まっていきます。
主人公の北十字良は、普通に高校生活を送っています。
仲の良いガールフレンドも、準レギュラーで登場します。
しかし自分の周囲で犯罪、例えば
罪のない人が殺されて、犯人は捕まらない
無実の人が罪を着せられて捕まる
などの事件が起こると、良の右手小指がドス黒く変色するのです。
そして、真犯人や事件の経緯などが、良には全て分かってしまうのです。
良は警察官でも探偵でもないので、何ら調べようがないのですが・・・。
詳細は読者に全く説明されませんが、おそらく世の中を恨んで死んだ死刑囚の脳を移植されたことで、特殊な能力が備わったのでしょう。
右手の小指が黒く変色するのが、能力の発動の証というところでしょうか。
ほくそ笑んでいる悪人の元に、良=カリュウドは何の前触れもなくやって来ます。
そして、情け容赦ない方法で成敗していきます。
現代の必殺仕事人?制裁の方法がとにかくエグい!
この「カリュウド」を平たく表現するなら、
「勝手に『必殺仕事人』」
とでも言うべきでしょうか。
被害者やその関係者とは、ほとんどの回で面識がありません。
復讐して恨みを晴らしてくれと、頼まれてもいません。
当然、報酬などあろうはずがありません。
そこが、「必殺」シリーズとの最大の違いです。
1話完結形式であるのは同じです。
また、この作品の最大の特徴は、
「制裁の方法が、毎回とにかくエグい」
ことです。
各話とも、高校生が考え付くとは思えない、巧妙かつ残酷な方法です。
詳細は、ネタバレ防止のため書かずにおきます。
悪人を殺してしまうことがほとんどですが、時には殺さない場合もあります。
ただその場合でも、
結局は死んでしまう状況に追い込む
逮捕されるなど社会的に抹殺され、生き地獄を味あわせる
という、
「情状酌量の余地なし!」
の制裁を加えます(悪人の所業も、確かに同情の余地がないほど悪辣なのですが・・・)。
当時の望月先生の絵柄は、少女マンガ的なタッチでした。
話のエグさと似つかわしくない絵のタッチが、むしろ怖さを引き立てているのが皮肉です・・・。
どの話も
「後味の悪い結末」
のオンパレードで、テレビの「必殺」シリーズのような爽快感は全くありません。
連載当時の読者の記憶にトラウマとして残っても、やむなしと思えます。
子供の頃は、読んだことがなかったが・・・。
実は私は子供時代、この「カリュウド」を読んだことがありませんでした。
「少年チャンピオン」などのマンガ雑誌を読む年頃になる前に、この作品は終わってしまっていました。
ただ、存在は知っていました。
単行本「チャンピオンコミックス」の巻末に、他の作品の広告が数ページ載っており、そこに「カリュウド」の1カットと簡単な作品紹介があったのです。
子供心に
「何だか怖そうなマンガだな・・・。」
と思ったきりで、その後大人になっても、「カリュウド」のことを思い出すことは全くありませんでした。
そんなある日、雑誌「映画秘宝」で有名な洋泉社のムック本
「まんが秘宝Vol.2 つっぱりアナーキー王」
を読んでいたところ、映画・ゲーム系ライターの
天野譲二さん
が、「カリュウド」を紹介・解説なさっていました。
そこで、主人公の殺しの手段の凄まじさ、ストーリーの何とも言えないダークさを知りました。
令和になり、Kindle Unlimitedを読んでいると・・・。
その後さらに20年超が経過し、令和になったある日。
私はAmazonの電子書籍定額読み放題サービス
「Kindle Unlimited」
のトップページを眺めていました。
すると、何と「カリュウド」が電子書籍で復刊されていることが判明しました!
私は即刻全5巻をダウンロードし、読破しました。
実際に読んでみると、聞きしに勝るダークな作品でした。
令和の「少年チャンピオン」では、掲載できないかもしれません。
ただ、「カリュウド」連載開始の前年まで、藤子不二雄Ⓐ先生の
「魔太郎がくる!!」
を連載していたチャンピオン編集部は、感覚が麻痺していたとしか思えません(笑)。
最後に・・・。
電子書籍で復刊されるまでは、「カリュウド」の古本はあまり出回っておらず、値段もかなり高額だったそうです。
電子書籍だと、1巻百数十円で購入可能です。
今まで読みたくとも読めなかった方、興味をお持ちになられた方は、この機会にお読みになってはいかがでしょうか。
決して損した気分にはならないと、自信を持ってお勧めします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。