木村直樹「<通訳>たちの幕末維新」は隠れた名著!

今回是非ご紹介したい本は、長崎大学教授の木村直樹さんの

「<通訳>たちの幕末維新」(吉川弘文館 刊)

です。

著者の木村さんは、2012年(平成24年)の刊行当時は東京大学史料編纂所の助教でした。

発行元の吉川弘文館は、歴史関連書籍専門の出版社で、歴史ファンにはかなり有名な会社です。

約8年前にこの本を買って読んだのですが、素晴らしい内容で、今まで読んだ歴史書(大して多くはありませんが)の中でもベストに推したいくらいの本です。

価格は2,800円+税と、決して安くはありません。

しかし、それでも十分に余りある知識を得られ、幕末の日本史の一面をしっかり理解できる名著です。

 

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徳川時代の通訳は、紆余曲折の末に語学のプロ集団になった!

江戸時代は徳川幕府によって、厳格な鎖国政策が採られていました。

しかし、実際は長崎の出島ではオランダと清(現在の中国)、対馬では朝鮮との貿易を主とした交流が行われていました。

当時の琉球(違う国家だった)や、現在の北海道のアイヌ民族とも様々な形で交流がありました。

本書ではオランダ語の通訳、当時で言う「通詞」(つうじ)たちについて扱っています。

17世紀はオランダが非常に大きな力を持っており、「オランダ東インド会社」(教科書にも出て来ます)は世界各地に進出していました。

出島のオランダ商館と円滑にコミュニケーションを取るため、「オランダ通詞」が必要となりました。

オランダ人やその他外国人による育成教育の結果、18世紀末頃には通詞たちの語学力が格段に向上し、「語学のプロ集団」としての地歩を固めていきました。

その間には幕府の厳しい監視・監督を受け、圧力に苦しんだり、蝦夷地(現在の北海道)への派遣や江戸への出府などを求められたりと、浮き沈みも経験しました。

 

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19世紀に入り、通詞たちや徳川幕府は大きな変化の波に晒された!

19世紀(1800年代)に入ると、外国との交渉に際してオランダ語だけでは対応が難しくなる事態も増えてきました。

ロシア語やフランス語、そして英語の重要性が増していき、通詞たちもそうした新しい言語の習得に取り組むこととなりました。

彼らが適応を迫られた変化は、実は江戸の徳川幕府にとっても極めて重大な変化でした。

最も身近に存在した大国の清が、アヘン戦争でイギリスに敗北し植民地化していく様子を知ることで、「天下泰平の世」に大きな影が忍び寄っていることを実感したはずです。

そして日本史に残る一大事件として、1853年(嘉永6年)にアメリカのペリー提督が率いる「黒船」艦隊の日本来航が、徳川の天下を大きく揺るがしました。

 

激動の幕末、通訳たちは外交の最前線に!

ペリー来航の翌年1854年(安政元年)には、アメリカとの間で「日米和親条約」が締結されました。

その後ヨーロッパの列強国も続々と、日本との国交を求めにやって来ました。

この辺りから通詞たちは、幕府の外交交渉の場に通訳・翻訳のため参加するようになります。

長崎の出島という小さな舞台から、国の政治・外交という大きな舞台へと移動して行き始めたのです。

 

オランダ及びオランダ語の地位が急速に低下した!

それと共に、オランダ語の重要性が一気に低下していきました。

当初は日本側で、英語やその他外国語(ロシア語、フランス語など)での交渉が困難だったため、各外国との交渉にはオランダ語が使われ、互いに自国の言語に通訳・翻訳していました。

しかし、幕府側の通詞たちが英語などを習得していくと、英語やフランス語などで直接交渉するようになりました。

肝心のオランダの国力もその頃には衰えており、オランダ語の地位も急速に低下していきました。

 

通訳たちの中には、明治の世で出世・活躍した人も多い!

本書では、幕末に活躍した数名の通詞についても描かれています。

森山 多吉郎(もりやま たきちろう)、堀 達之助(ほり たつのすけ)、西 吉十郎(にし きちじゅうろう)については、日本史の教科書や大河ドラマに登場するようなメジャーな名前ではないので、ご存知ない方が多いはずです。

上記三人の中では西吉十郎が最も出世し、1890年(明治23年)には大審院(現在で言う最高裁)の院長も務めました。

また、本書では詳しくは言及されていませんが、説明不要の福沢諭吉や明治時代のジャーナリスト福地桜痴(源一郎)、津田塾大学の創設者である津田梅子の父、津田仙弥(せん)の名前も挙げられています。

各人に共通しているのは、単に外国語が上手だったというだけでなく(それ自体凄い事なのですが)、外国語を通じて様々な知識や考え方に接し、それを武器にしてより大きな世界へと飛躍していったことです。

 

最後に・・・。

本書は一見とっつきにくそうですが、文章は難解さが極力除かれており、内容も私のような門外漢が理解しやすいように書かれています。

大河ドラマや司馬遼太郎さんの小説で描かれるような華やかな物語ではなく、「幕末の外交裏面史」が明らかにされています。

また、外国語を学ぶ大変さについても実感できますので、現在外国語を学習中の方にも馴染みやすいです。

書店やAmazonなどのネット通販で現在も入手可能ですので、興味を持たれた方は是非お読みいただきたいと思います。


 

「お値段以上」の読み応えがある名著です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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