皆様は日常生活で、
「善処する」
という言葉をお使いになる機会があるでしょうか?
岩波書店「広辞苑」で調べると、
【善処】①物事をうまく処置すること。『すみやかにーする』
②⇨善所に同じ
とあります。
お分かりの通り、①の意味です。
要するに
「うまいことやっておきます!」
です。
しかし、官僚・政治用語やビジネス用語では、小難しい言い回しを用います。
この「善処する」、英語ではどう表現すべきでしょうか?
和英辞典では、ドンピシャの表現が載っている!
大修館書店 ジーニアス和英辞典で
「善処する」を調べると、
「take proper measures」(適切な処置を取る)
「We‘ll deal with this matter right and properly.」(この問題については善処します。)
といった例文が載っています。
まさしく
「物事をうまく処置すること」
を完璧に表現しています。
『善処する』には、辞書にない意味も・・・。
インターネット上のWeb辞書では、他に
「deal with the matter in an appropriate manner[way]」
「do what is best under the circumstances」
などの表現も載っています。
これらは上記と同様の意味です。
今回はこれにて一件落着!
と言いたいところですが、そう簡単には終わりません。
「善処する」には他に、
「できる限りの努力をする」
「(できるかどうか)調べてみる」
といったニュアンスも含まれています。
[表現によっては、相手に誤解を与えることも!]
「できる限り努力する」を逐語訳すると、
「do one‘s best (that one can)」
となります。
しかし多くの書籍やWebサイトでは、
「この表現は大きなトラブルの元になる。」
と指摘されています。
相手が
「こちらの要望通りにやってくれる」
つまり「Yes」
だと解釈する恐れがあるそうです。
「(可否を)調べてみる」
は英訳すると
「look into 〜」
が最も分かりやすいでしょう。
相手に誤解を与える危険性も低いはず。
英語でビジネスの話をする際は、「look into〜」を使う方が無難だと思います。
プロ通訳は、より細かく言葉を選ぶ!
あるWebサイトでは、
「とりあえず取り組んでみる」
の意味で
「address 〜」、
「気を付けておく(留意しておく)」
の意味で
「take note of 〜」
を挙げていました。
プロの通訳レベルになると、話し転職の意図を汲んで、これくらい細かい語彙の選択をするそうです。
官僚や政治家の『善処する』には、さらなる裏の意味が・・・。
日本でもビジネス界では、グローバル化に伴い「善処する」のような曖昧な日本語は、段々廃れてきている模様です。
未だに多用しているのは、官僚や政治家くらいでしょう。
彼らの使う「善処するは」、
「一応言われたから検討はしてみるよ。でも必ず実行するって約束したわけじゃないよ。そこは勘違いしないでね。」
という意味です。
はっきり言えば、
「確率90%でNO」
という感じです。
そうなると、今まで紹介してきた表現の中では、
「look into 〜」
「take note of 〜」
の二者択一と化してしまいます・・・。
『善処する』の真意をそのまま英訳すると・・・。
日本の国会答弁や記者会見などで、官僚や政治家が使う
「善処する」
を正確に英語に訳すると、以下のような文になるのではないか?
と思います。
「We look into this matter reluctantly. However, it doesn‘t mean that we promise to take some concrete measures. We would like you not to misunderstand that.」
(仕方ないんで、この問題を調査します。でも、何らかの具体的処置を取るって約束するわけじゃないです。そこを誤解しないようにお願いしますよ。)
最後に・・・。
日本で生活し働いている外国人の数は、今後増えこそすれ、減ることはないでしょう。
そういった人々が日本語を学ぶ中で、
「善処する」
のような類の言葉は、単に辞書を引けば分かるものではありません。
日本人お得意の
「本音と建前」
の典型的な言葉だからです。
岩波書店には、日本で生活する外国人向けに、こういった曖昧な言葉の真の意味を解説する辞典を編集し、出版して欲しいと願います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。