ネタバレなし:日本国民は今こそ映画「解放区」を観ろ!

日本の映画業界は、2020年(令和2年)からのコロナ禍において、影響が大きかった業界の一つです。

大手「シネコン」も苦境に立たされましたが、「ミニシアター」はさらに厳しい状況でした。

緊急事態宣言が解除となりますので、ミニシアターがそうした状況から脱せることを願っています。

私は、どちらかと言えばミニシアター派です。

大きな映画館では絶対に上映されないような、個性的な作品を流してくれるからです。

 

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『解放区』は公開が5年も遅れた!

今回ご紹介する日本映画

「解放区」

は、2019年(令和元年)10月に劇場公開されました。

全国ロードショーの大作ではなく、ミニシアターで上映された作品です。

作品の内容はもちろん、公開に至る経緯が極めて珍しい

「異色作」

です。

監督の

太田信吾さん

は、本作の脚本も手掛けました。

俳優としても活動なさっており、本作では主演も務められました。

本作はもともと、2014年(平成26年)公開の予定でした。

なぜ公開が5年も遅れたのでしょうか?

その理由からして既に

「異色」

と言えます。

 

大阪市の映画プロジェクトの一作。舞台となったのが・・・。

2013年(平成25年)当時、大阪市はCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)という会社と提携し、年に3本映画を作るというプロジェクトを進めていました。

その中の一本として企画が採用されたのが、「解放区」でした。

作品の舞台は大阪。

しかし作品の内容は、恋愛物やコメディー、アクション物とは一線を画していました。

主な舞台として選ばれたのは、大阪市西成区の

釜ヶ崎あいりん地区。

東京の山谷と並ぶ

「日雇い労働者の街」

として知られています。

もっとも、現在は景気の低迷や労働者の高齢化などで、かつての活気は失われましたが・・・。

かなりのシーンがこの街で撮影され、監督や出演者・スタッフも1ヶ月近く、あいりん地区で集団生活を送ったそうです。

 

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大阪市から助成金を受け、作品は完成したが・・・。

大阪市が関わるプロジェクトの一環なので、本作には大阪市から

「助成金」

が出ました。

もちろんハリウッド映画並みの予算は望むべくもありません。

しかし、製作者側にとっては大きな助けとなりました。

作品は2014年2月に完成。

編集作業を終え、映像を大阪市に提出。

関係者に観てもらいました。

ところが、そこで製作側が予期しなかった事態が起こります。

大阪市からクレームが入り、作品の修正を求められたのです。

 

監督たちは納得できず、助成金を全額返還!

多数のカット希望シーンが、箇条書きで送られてきたとのこと。

そもそも、制作側は企画段階から

「あいりん地区で撮影する」

ことを強く主張していたそうです。

脚本も事前に提出しており、物語の大きな変更などは行っていません。

クレームとなるような行為は行われませんでした。

しかし、クレームは

「西成区と分かる描写は全てカットしてくれ。」

などの

「今頃それ言うか・・・。」

というものばかり。

太田監督曰く

「全てに応じたら、映画自体が成立しなくなるくらいのレベル」

だったそうです。

監督はプロデューサーと相談。

そして出した結論が

「助成金の全額を大阪市へ返還する」

というものでした。

 

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5年後の劇場公開前は話題に!

そして、映画の権利は制作側に帰属することとなりました。

本作は2014年の「大阪アジアン映画祭」で上映される予定でしたが、中止となりました。

その後約5年の年月を経て、ようやく劇場公開がなされました。

公開時は、大阪のテレビ・新聞を中心に話題となり、ネット上でも本作の存在は広まりました。

私は公開当時、大阪の「テアトル梅田」というミニシアターで観ました。

ミニシアターでの上映にもかかわらず、劇場の座席は満員でした。

 

ADの主人公は、自分の作品を作るため釜ヶ崎に・・・。

あらすじを簡単に書きます。

主人公の須山は、映像制作会社でAD(アシスタントディレクター)として働いています。

ディレクターになって、自分の作品を作るのが夢です。

しかし、現実は甘くありません。

テレビ局の番組企画公募に応募し、プレゼンを行いますが、あえなく不採用。

ある日、取材ロケ先でディレクターの非常識な言動に異を唱え、仕事を放棄してしまいます。

そして須山は、恋人にも伝えないまま、一人で大阪へ。

大阪市西成区の、釜ヶ崎あいりん地区へ向かいました。

以前旅行で大阪に行き、釜ヶ崎を訪れた際、ショウタという少年と出会っていました。

そのショウタを見つけ出し、自分の企画したドキュメンタリー作品の主人公(=被写体)にしようと目論んだのです。

しかし、見知らぬ街でたった一人では、何もできません。

須山は、東京でのロケで知り合った、元プロボクサーで統合失調症の本山を大阪に呼び寄せます。

そして、二人でショウタの行方を探し始めますが・・・。

 

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地元の一般人が出演、プロも無名。かえって現実味が!

ネタバレ防止のため、内容についてはここまでにしておきます。

本作の大阪でのシーンは、全てあいりん地区で撮影されています。

テレビのニュースなどと違い、行き交う人々の顔にはボカシがありません。

出演者の中には、現地在住の一般人もかなりいるとのこと。

プロの俳優・女優も全員が無名で(スイマセン・・・)、私が唯一知っていたのは、西成区出身のラッパー

SHINGO☆西成さん(現在も大阪を拠点に活動。本作のエンディングテーマも担当なさっています)

だけでした・・・。

しかしそのおかげで、本作のドキュメンタリータッチが、妙に本物っぽく見えます。

有名人が出て来ないので、かえってリアリティーのようなものが感じられるのです。

 

『ありのまま』を撮った映画ゆえに、嫌がられた!

本作は決して、西成区や釜ヶ崎あいりん地区をバカにしてはいません。

そして、薄っぺらい同情心・正義感を振りかざしてもいません。

なぜ大阪市からクレームが来たかにつき、理由はおそらくただ一つ。

「観光PRフィルム」

的な要素を一切入れず、あいりん地区の

「ありのままの姿」

を撮り続けたからでしょう。

国や地方自治体、いわゆる

「行政」

は、「ありのままの姿」が基本的に大嫌いです。

少しでも美しく見せたがり、見せたくないものは隠そうとします。

 

最後に・・・。

例えば東北の被災地の現状や、「東京2020」の後の各競技会場の現状などが、そのまま人々の眼に晒されては困るのです。

「王様は裸だ!」

と皆が一斉に言い始めるのを恐れているのです・・・。

今後も我々は、政治家たちの見せかけだけのパフォーマンス、国際的スポーツ大会、万博などの大規模イベントなどに騙され、日本の

「ありのままの姿」

から眼を逸らされ続けるのでしょうか・・・。

本作「解放区」は、DVDが発売されており、Amazonなどのネット通販で購入できます。


 

もちろんレンタルも可能です。

大阪を含む関西の方々はもちろん、日本中の方にご覧いただきたい作品です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

興味がございましたら、こちらもお読みください。

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